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長谷部誠 僕が岡田ジャパンのキーマンになる。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

PROFILE

photograph byKeiko Kanda

posted2009/06/15 11:00

長谷部誠 僕が岡田ジャパンのキーマンになる。<Number Web> photograph by Keiko Kanda

 ときに怪我をも厭わぬ激しいチャージで敵の攻撃の芽を摘み、チャンスとあれば一気に前線へ駆け上がる。
ブンデスリーガ制覇という勲章を手にした若武者の、端整な表情の奥に秘めた代表への熱き想い。

 白ビールがなみなみとつがれた1リットルの特大ジョッキを口に運ぶと、苦い薬でも呑んだかのように長谷部誠の表情がゆがんだ。

「もともとビールは好きじゃないんですよ。王者の味? 全然うまくなかった(笑)」

 ビール嫌いを知ってか知らずか、得点王(28ゴール)のグラフィッチが忍び寄ってジョッキを頭の上でひっくり返す。ミックスゾーンに来たとき、長谷部はすっかりビールまみれになっていた。

 選手たちは2人1組でオープンカーに乗せられ、10万人が待ち構える街中へと送り出された。普段なら市庁舎までは10分とかからないが、この日は1時間を過ぎてもまだ先が見えない。市庁舎脇の舞台で長谷部がマイスターシャーレ(優勝皿)を掲げる頃には、試合終了から4時間が経過していた。

► 【フォトギャラリー】 写真で見る歓喜の瞬間。

「このエネルギー、ハンパじゃないですよ。車ではみんなにサインして握手して、めちゃくちゃ疲れました。でもね、心地よい疲れ、っていうんですか。これだけの人が喜んでいるのを見て、あらためてすごいことをやったんだなと感じています」

日本人のマイスターシャーレは奥寺康彦以来、31年ぶり。

写真

長谷部は優勝直後のスタジアムで日の丸を掲げて歩いた [ フォトギャラリーへ ]

 5月23日、ヴォルフスブルクは最終節でブレーメンに5対1で勝利し、クラブ史上初めてブンデスリーガ優勝を成し遂げた。日本人にとっては、奥寺康彦以来31年ぶりのマイスターシャーレ。当時まだ生まれていなかった若者が、再びドイツ人の記憶に日本選手の名を刻み込んだ。

 特にラスト2試合の長谷部の活躍を、サポーターは決して忘れないだろう。33節のハノーファー戦では2アシスト、最終戦ではドリブルからのクロスで1点目を呼び込んだ。つまり、優勝がかかった最も重要な2試合で、先制点のお膳立てをしたのである。

激しい生存競争とケガを乗り越えて掴んだ栄光。

 ただし、今季の長谷部は、必ずしもシーズンを通して順風満帆だったわけではない。ときには帆が裂け、逆風に吹き飛ばされそうになったこともあった。

 とにかく競争が激しかった。

 長谷部の主戦場である右サイドMFには、夏にイタリア代表のザッカルドが、冬にスロバキア代表のペカリクが加入。ウィンターブレイク明けから25節まで、公式戦12試合で先発したのは5試合のみ。これほど出番が減ったのは、ドイツに来てから初めてのことである。そのうえ、3月28日の日本対バーレーン戦では、それまで痛めていた左ヒザの症状が悪化し、手術を受け、約1カ月半の離脱を余儀なくされた。

「正直、苦しかった」

 長谷部はまずは半年間、時計の針を巻き戻した。

「もともと右サイドには突出した選手がいなかったのですが、冬にペッキ(ペカリク)がやって来て、競争がより激しくなった。後期の最初の頃はUEFAカップを中心に出ていたんですが、だんだん出番が減ってきて……。さらにケガで離脱し、チームがいい状態で勝っていたので、正直焦りを感じていました」

 最もショックだったのは、右サイドバックのリーターが、右MFに起用されたことだろう。マガト監督は長谷部を使うよりも、サイドバックのコンバートを選んだのである。マガトは何かひとつのきっかけで、簡単に選手を外す監督だ。長谷部の頭には、これまでアマチュアチームに落とされたチームメイトたちの姿がよぎったかもしれない。

ベンチからの観察でわかったマガト監督の意図。

 しかし、シーズンの最後には、再びリーターから定位置を取り返すことができた。なぜか? 先発から離れた時期に、「自分が使われない理由」を考え続けたからである。

「ドイツ語が話せるようになったと言っても、まだまだミーティングでわからないときもある。監督がどんなプレーに怒り、どんなプレーを褒めるのか、ベンチから徹底的に観察しようと思ったんです。それに加えてサーシャ(リーター)のプレーを盗めばいいと思った。彼は頭のいい選手なので、監督の要求を忠実に実行できる。とにかくベンチに座っている時間を大切にしようと思った」

控えに回ることでわかったロングボールへの“躊躇”。

 その結果、ある課題が浮かび上がって来た。それは、ロングボールを蹴ることへの“躊躇”である。

「ある試合の前、マガト監督が『今日は相手のDFラインの裏を狙って、対角線上にロングボールを蹴れ』と指示したんです。するとサーシャは忠実に実行していた。それを見て、自分はシンプルに前に蹴ることを躊躇していたことに気がついたんです」

 ヴォルフスブルクには身長189cmのグラフィッチと、192cmのジェコという、欧州でもトップクラスの大型2トップが並んでいて、今季は2人で54ゴールをあげた。

 やっているサッカーが魅力的かどうかは別にして、この2人にロングボールを出せば、チャンスにつながる確率は非常に高い。マガトはそのストロングポイントを、最大限に生かすための戦術を指示した。

<次ページへ続く>

► 【次ページ】 監督の戦術に長谷部らしさを加える天性のセンス。

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