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大橋未歩×生島淳 「新世代の台頭で幕を開けた一年」 

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2009/01/06 00:00

スポーツの現場をこよなく愛するふたりが、
いろいろあった2008年を縦横無尽に語りつくす。
まずは10代が活躍した1月から4月までの話題から。

生島 今年は北京五輪があったためか、一年過ぎるのがすごく早く感じました。1月から4月までだって、いろいろありましたね。大橋さんは年初めは何が印象に残ってますか?

大橋 毎年、プロ野球のキャンプ取材に行ってるんですが、今年は北海道日本ハムの「中田翔フィーバー」でしょうかね。

生島 すごかったですからね、1月や2月あたりは。いま、どうなっちゃってるの? って感じですが。

大橋 最初はビッグマウスもひとつの売りだったと思うんです。「月30万円のおこづかい」だとか、「1年目からホームラン30本打ちたい」とか。ただ、解説者の方たちが「中田は苦労すると思うよ」というのも聞いていたので、正直、全面的に持ち上げすぎてるな……と心が痛みながら伝えている面はありました。

生島 マスコミはどうしてもスターが欲しい。それをメシの種にしているところがありますからね。たしかにマスコミ全体で「中田を盛り上げていく」という雰囲気はありました。

大橋 実はこの前、シーズンが終わってから中田選手にインタビューしたんです。

生島 どうでした?

大橋 かなり反省してました。「やっぱり自分が甘かったです」とか「『プロ』という意識を学びました」という感じで、もうなんだかすごく殊勝な青年になっていて。

生島 清原の後釜としては物足りないくらい真面目だなあ。

大橋 でも、最後に「中田選手にとってバッターボックスって何ですか?」って質問をしたら、「一軍の選手しか立っちゃいけない場所だと思うんです」って言ったんです。インタビューを象徴するような言葉がポッと出るあたり、やっぱりスターの素質があるんだなあと感じた部分はありました。

生島 今年は「新世代のティーンエイジャー」の台頭が目立った年だったと思ってるんです。中田翔は残念ながら1年目は期待に応えられなかったけど、新年早々に16歳の石川遼がプロ転向宣言して、素晴らしい結果を残した。2月には18歳の錦織圭がアメリカのツアーで優勝して、3月のフィギュアスケートの世界選手権では浅田真央が初優勝してる。4月にはロッテの唐川が平成生まれの選手として初めての勝利をあげた。もう日本を背負ってるのは10代の選手たちで、ウチの息子とあんまり変わらなくなってる(笑)。

大橋 荒川静香さんが浅田選手について「こういう子がフィギュアをするために生まれて来るんだと思った」と話してらっしゃったんです。金メダルを取った荒川さんがそう言うのって、すごいと思いません?

生島 それはすごい。なんなんですかね、浅田真央の才能は。

大橋 錦織選手はどんな雰囲気の選手なんですか?

生島 錦織がアメリカで優勝した時に、はっきりと「ああ、これは時代が変わりつつある」と認識したように思います。間近で観察できたのは北京五輪の時が最初でしたけど、本当に素直、天然。絶対、苦労しているはずなのに苦労を感じさせないし、自然に世界のトップを目指している感じ。これは30代以上の日本人は持っていない感覚だと思う。錦織は奨学金をもらって、中学校の時からアメリカで同世代の選手たちとプレーしているから「世界で部活やってました」みたいな感じ(笑)。

大橋 そういえば、福原愛選手もやっと今年20歳になったばかりで……。

生島 錦織&福原の話題は年末に取っておくとしましょう(笑)。

大橋 いや、真面目な話をすれば、私、福原選手って2度戦ってる選手だと思うんです。

生島 2度?

大橋 相手と戦って、そして子どものころは大人の視線から自分を守るためにも戦ってきたんじゃないかと思うんですよね。

生島 なるほど。あれだけ気を使う10代は見たことがなかったけど、自分を守る方法だったのかもしれない。

大橋 2月から3月にかけて行われた世界卓球の団体戦で3位に入って、あの愛ちゃんが勝って泣くところを見たのは感動的でした。

生島 あれ、世界卓球の中継はテレビ東京さんでしたよね?

大橋 そうなんです。シンガポール戦では視聴率が15.9%まで行きまして、テレビ東京でこの数字は『開運! なんでも鑑定団』くらいの視聴率なんです!

生島 卓球でその数字って、画期的ですよね。

大橋 ウチとしては万々歳でした。

生島 福原愛という選手の存在は、他の10代とはちょっと違いますね。彼女はホント、大人に気を使える人間だけど、他の10代の選手たちって天然系が多いから。

大橋 天然というか、周りがどんな雰囲気だろうとマイペースを保てる。そういう「KY力」って、選手たちにはすごく必要じゃないかと思ってるんです。

生島 たしかに10代の選手たちは周りがどんなに騒ごうと、自分の世界を持ってる印象はあります。

大橋 KY力抜群なのが体操の内村航平選手。北京五輪前の試技会でみんな緊張してるのに、内村選手だけはのらりくらりと自分のペースで進めていました。あん馬なんて適当にやってるようにしか見えなくて(笑)。

生島 彼はあん馬が嫌いみたいだから。

大橋 そういうことを堂々とできるのって、ある意味、強心臓だと思うんです。だって代表チームの中で最年少でしたから。

生島 たぶん、内村は外野にどう思われようと関係ないと思ってるんじゃないかな。自分に素直というか。

大橋 周りの目を気にするとそれが自分のプレッシャーにつながることってありますよね。そういうことを考えないで済むのって、才能だと思うし、それが北京の結果につながっていったのかなと思います。

生島 あと、今年のトピックスを見ていたら、自分の仕事がこの不況のなか、「バブル」を2回迎えていたのを思い出したんです。

大橋 なんですか、バブルって?

生島 突然降って湧いたように仕事の依頼が来る時があるんです。最初は「中東の笛バブル」。ハンドボールの予選やり直しの問題です。アジアハンドボール連盟(AHF)では中東、特にクウェートに対して有利な笛が吹かれてきたという事実が白日の下に晒されたわけだけど、スポーツ報道だけじゃなくワイドショーにまで広がりを見せて、やり直しが行われた代々木第一体育館に1万人の観衆が集まった。これにはビックリしましたね。マイナースポーツでも、流れが来ればこれだけの注目が集まるんだなと。

大橋 同期の男性アナがハンドボールの経験者で、彼と一緒に取材に行ったんです。そしたらなんか私もユニフォームを着ろとかって支給されて(笑)。それに会場内はすごい盛り上がりだったから「わくわくするね」って言ったら、「何言ってんだ、これは戦いなんだ」って怒られちゃった(笑)。

生島 これまでほとんど注目されてこなかった競技だけに、関係者の意気込みはすごかったですね。千載一遇のチャンスだって。

大橋 結果は残念でしたが……。

生島 厳しいことをいえば、ひょっとしてあれが最初で最後のチャンスだったのかもしれない。ただ、オイルマネーがスポーツの世界に影響を与えていることがはっきり分かったわけだし、メディアとしてはAHFが正常化されるのかどうかウォッチしていかないと、あれだけ騒いだ意味がなくなってしまう。

大橋 生島さん、あともう一つのバブルってなんですか?

生島 それは次のお楽しみということで。

 (続きは Number719号 で)

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