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播戸竜二 「アジアから、また始めたい」 

text by

吉崎エイジーニョ

吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki

PROFILE

posted2007/09/06 00:06

 2分、わずか2分で十分だった。

 6月5日、キリンカップ最終戦コロンビア戦。埼玉スタジアムで行われた、アジアカップ前、最後の国際Aマッチでの出来事だ。

 0-0で迎えた90分、ロスタイムは2分。播戸竜二は高原直泰に替わり、ピッチに足を踏み入れた。2分間で、この日一番の盛り上がりを創り出してみせた。

 コロンビアがDFラインでボールを右に展開。投入直後の播戸は、すかさず足元にタックルを仕掛けた。相手の行く手は遮ったが、ボールは奪えない。

 すると即座に立ち上がり、再び飛び込んだ。

 高速連続タックルに、スタンドがドッと沸いた。

 試合後、播戸は中澤佑二、川口能活らに褒めの言葉をかけられた。大阪に戻ると、ガンバのチームメイト家長昭博らがこう声をかけてきた。

 「2分しか出てないのに、やりきった感があるなぁ」

 播戸は高速連続タックルをこう回想する。

 「やりきりました。2分間で90分ぶんのエネルギーを使おうと思っていましたから」

 ゲームはスコアレスで終わった。もしあのプレーがなければ、観る側は帰り道、混雑する埼玉高速鉄道をより窮屈に感じたことだろう。0-0では、満足できない。

 あの日以来、播戸は日本代表のピッチに立っていない。7月のアジアカップでは大会最終エントリーに選出された。しかし、出国直前の右太ももの負傷でチームを離脱。大会後、8月22日の親善試合カメルーン戦に向けた代表リストにも、名前がなかった。

 しかし、あのコロンビア戦のプレーこそ、日本代表に求められるものではなかったか。

 1年前の夏、ドイツワールドカップ初戦のオーストラリア戦。敗戦のはがゆさは、終盤のプレーぶりにあった。2点のビハインドを許し、絶対的にゴールが必要な状況。しかしスタンドから見る限り、無茶をしてでもゴールに迫る気迫を感じなかった。

 1年後、アジアカップでのオーストラリアとの再戦。リベンジを果たした瞬間には、久々に代表に熱くなれた。しかし準決勝、3位決定戦では尻すぼみに終わる。終盤、ゴールが必要な状況でも横パス、バックパスが目につき、淡々とプレーしているように見えた。ワールドカップ時に似た消化不良の感を抱いた。

 だからこそ、8月上旬、大阪万博公園に播戸を訪れた。聞きたいことは、決まっていた。

 ここ最近、日本代表の試合に感情移入がしにくくなっている。選手の技術レベルは上がっているというのに、カズ・ゴンの時代のように熱くなれない。アジアカップをどう見たのか。選手の声を聞きたかった。

 細かい戦術の話など、ほとんどない。播戸とのやりとりはラディカルなものになった。

──アジアカップはご覧になりましたか?

 「ええ。テレビでね。オシムさんがやろうとしていることが、少しずつできているという印象でしたね。サイドで数的優位をつくることだとか、素早いパス回しで、相手を崩すことなどです。画面を通して見ていても『ここでパスを出せばいいのに』という状況で、イメージが一致することが多かったですし。ただ、大会については多くを語る立場にはないと思います。出場していた選手へのリスペクトがありますからね」

──直前の負傷で、本大会出場はならなかった。期間中、新聞には「ムードメーカー播戸が必要」と度々書かれていました。

 「友達とテレビで観ながら、『ここは播戸の出番やなぁ』と話すことはありましたけどね。あくまで冗談でね。ムードメーカー。悪い意味じゃないから、いいんですけど。ただ、それだけで生き残っていける選手はいないでしょう」

──いつごろからこういう役回りを?

 「うーん、ムードメーカーって……昔からそういう役割が求められたことはあるけど、そもそもそれは意識しすぎるものじゃない。自然と持って生まれた、自分のキャラクターだと思うし。それを認めてくれる監督もいれば、そうじゃない監督もいると思うんです。自分が無理して何かをしようというのは、とりたててないです」

──オシムからはそれを求められている?

 「うーん、あんまりどういう役割とか限定しては考えませんね。それが出来なくなったときに、自分の存在意義がなくなると思うんです。だからこう考えている。播戸竜二っていうサッカー選手をまるまる買ってくれてるという風にね。ムードメーカーだけなら、お笑い芸人を連れて行けばいいわけで!― オシムさんは、全体のバランスを見てチームをつくっている。年齢、ポジション、キャラクターのバランスですね」

──では、自分がやりたいプレーとは?

 「監督それぞれで、当然やってほしい役割は違いますよね。それを全部やるのは無理なんですよ。監督がどうしてほしい、自分がこうしたい。だからここを削って、ここを足してというふうにやっていけばいいと思う。

 僕はJリーグで何度も移籍を経験してきた。だからこういう考えに至ったんだと思う。ずっと1つのチームにいたら、新しい監督にひたすら合わせることを考えたかもしれない。プロの選手は極端な話、監督と戦術の不一致があれば、別のチームに行けばいいわけで。

 もちろん代表では事情が違う。でもね、たとえば監督に『アカン』と言われた時、『じゃあこことここ直しますから、選んでよ』というのはどうなんかと思う。それやってると、一番いいところが消えちゃいますよ。自分の一番気持ちいいプレーをやって、選んでもらうのが一番いい」

(以下、Number686号へ)

播戸竜二

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