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王貞治「監督日記」 勝算われにあり! <再録連載第1回> 

text by

瀧 安治

瀧 安治Yasuji Taki

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photograph byKazuhito Yamada

posted2009/05/21 11:00

王貞治「監督日記」 勝算われにあり! <再録連載第1回><Number Web> photograph by Kazuhito Yamada

再録連載 第1回(3/3)

阪神があそこまでやるとは。

 試合は思わぬ展開で始まった。江川が投げスミスがホームランを打ち、あのままいくと思ったが、オープン戦とは違う、やっぱり楽にはいかない。我々も引き締まってはいたが、弱いと思っていた阪神があそこまでやるとは思わなかった。

 データもちょっと違っている。江川もああ簡単に打ち崩されるとは。それに斎藤も可哀相だったな。やっぱり第1戦は若い彼には重かったかな。でもいつか経験することだし、それが早くきたということであって、斎藤によかれと思って使った。いくら期待のピッチャーが打たれようとも、内野がエラーしようともチャンスに三振しても、俺は顔色を変えたりしては駄目だ、平静を保つのだと自分自身に言い聞かせる。が、自分で心の動きが顔に上ってくるのがわかる。それを止めようと必死に努力する。気持のままに立ちあがってベンチの中をウロウロ動き回りたい。そうした方がはるかに落ちつくのだ。でも後楽園は立てる場所がない。あのシートにジイッと座っているのは実にシンドイ、ようっし!!

 原が打った、これで同点だ、負けはないぞ!! よかったぞ、うちとしては勝ちと一緒だ。8対8。結構、結構。終った後のロッカーは明るい。4時間近くの試合であったが、全然長くは感じなかった。あっという間に終ってしまった。オープン戦の時は勝っても負けても前向きに、前向きにやっていけるが、本番となると反対に反省、反省になってしまう。困ったものである。こんなゲームがこれから先、ずっと続くかと思うとちょっと嫌だね。せいぜい暇をみつけて、テニスをやったりランニングをしたりして、体を鍛えなくちゃ駄目だな。指揮官がまず頑健で丈夫な体を維持することが先決である。

初戦のつまずきで、ペナントレースは「最後には地力のある方の勝つ」という信念に影がさし始めた王監督に、ようやく初勝利の日が。

► 【連載第2回】  王貞治は神様じゃないんだ。

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