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日本代表はいかに戦うべきか。 

text by

戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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posted2004/10/07 09:27

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[10月決戦のツボ]日本代表はいかに戦うべきか。

戸塚啓=文

text by Kei Totsuka

 ホームのオマーンは強い。

 2003年1月に行なわれたノルウェーとの親善試合を最後に、彼らは地元で黒星を喫していない。対戦相手をアジアと中東に限定すれば、敗戦の記憶は2001年9月のカタール戦までさかのぼる。昨年10月には、アジアカップ予選で韓国を3-1と撃破した。今予選のシンガポール戦でも大量7ゴールを略奪した。

 通算でも3勝2分けと日本にとって相性のいい相手でありながら、10月13日の直接対決が「大一番」と位置づけられるのも、オマーンのそうした実績を考慮してのことだろう。

 日本にアドバンテージがあるとすれば、ミラン・マチャラが率いるオマーンに1点も許していないことだろう。引き分け狙いだった埼玉はともかく、明らかに勝ち点3を奪おうとしてきた重慶でも、オマーンはノーゴールに終わっているのだ。

 「同じ1点差でも、2-1と1-0ではかなり違います。『ああ、あと1点で追いつけたのにな』というのと、『1点差だけど、点を取れなかった』というのとではね。アジアカップではずいぶんやられたけど、最終的に日本が無失点に抑えた。それはやっぱり大きい。『あれだけ主導権を握って攻めたのに、取れなかった』という思いが、オマーンには残ったでしょうね。次の対戦でも、勢いづいた時間帯に得点できなかったら、『やっぱり取れないなぁ』となりますよ」

 ともに1-0だった過去2試合をポジティブに解釈するのは、元日本代表MFの山口素弘だ。1997年3月と6月のフランスW杯予選でオマーンと対戦経験のあるベテランが読み解く選手心理は、おそらくスコアの裏側を的確についている。

 元日本代表DFの加藤久も、日本の精神的優位を疑わない。根拠となるのは、アジアカップをきっかけとする戦い方の変化だ。

 「3月のシンガポール戦は、早く点を取りたいという気持ちがマイナスに作用した典型的なゲームだった。でも最近の日本は、ゲーム運びに自信が感じられる。じっくり戦うことができている。90分で決めればいいんだ、という戦いができている。その感覚を持っていれば、時間の経過とともに焦るのはオマーンになる。勝ち点3をリードしているアドバンテージが、そこで生きてくるんです」

 '90年代中期以降の中東勢は、ほぼ例外なくカウンター主体のサッカーで日本に挑んできた。山口が出場した'96年のアジアカップで、マチャラ率いるクウェートに苦杯をなめたのはまさにそのパターンである。

 「でも、今回のアジアカップで対戦した中東勢は、ずいぶんつなぐようになってましたよね。それを日本もしっかり受け止めていた。暑さとかコンディションを考えてのことだろうけど、主導権を握られたゲームにも勝って優勝したのは大きい。オマーンがどういう入り方をしてくるか分からないけど、今度のゲームでも応用できるんじゃないですか」

 もちろん、アジアカップから成熟度を高める日本の試合運びは、マチャラも十分に把握しているだろう。「若い選手が多いオマーンは経験が不足している」と話してきたのも、日本との比較に基づいたものである。

 そう考えると、立ち上がりからアグレッシブに戦ってくるゲームプランは想定しにくい。まずは日本の特徴を潰して、後半に勝負を仕掛けるホームでの「必勝法」に、お得意のパターンに持ち込もうとするはずだ。1-0で立場を引っ繰り返せるオマーンには、最小限のリスクで成功を勝ち取る方法だと言える。

 基本的なスタンスはディフェンス重視だから、1度目の対戦のようなタイトなマン・マークも予想される。「経験不足を補うために、スピードとスタミナを重視する」とマチャラは話しているが、いずれも質の高いマークに必要な要素だからだ。中東の暑さと密着マークで日本を消耗させ、経験値の違いをも埋めてしまおうというのである。3度目の攻防の、最初のポイントがここにある。

 オマーンのマン・マークを振り切れなかった2月の日本は、極めつきの悪循環に陥った。ボールを回せるのはセンターライン付近までで、敵陣の深いゾーンへ効果的なパスを供給できない。行き先のないボールは自陣へ戻るばかりで、最終ラインや中盤から確率の低いフィードが繰り返された。

 同じ苦しみを味わわないために、マスカットでの日本はどうするべきだろうか。

 「そこでしょうね」と山口は頷いた上で、国内有数のボランチならではの、マン・マークを切り崩す突破口を示してみせた。

 「ベタッとマークにつかれていても、あえて2トップやトップ下にボールを入れるのも大事でしょう。そうやってボールを回すのが日本のサッカーだし、オマーンが一番やられたくないことだから。そこである程度キープできれば相手にプレッシャーをかけられるし、ファウルをもらえればチャンスが拡がる。アジアの戦いだと、どこまでファウルをとってくれるのかというレフリーの判定基準を早いうちに見極めるのは必要ですけどね」

 さらに山口から、過去2度の対戦で日本がほとんど見せていない攻撃のバリエーションが提案された。

 「タテのポジションチェンジが効果的かもしれない。ボランチとトップ下、トップ下とFWとかね。(アジアカップでの)俊輔のところが中心となって、混乱させることはできるでしょう。左右のポジションチェンジみたいに、マークを受け渡せばいいというわけにはいかないから。ただ、それだけポジションチェンジをすると、自分たちの形も崩れる可能性がある。攻撃から守備の切り替えのところで、うまく準備できない可能性が出てくるんです。それでもタテのポジションチェンジをする勇気を、チームとして持てるかどうか」

 確かに守備面でのリスクをマネジメントできれば、マン・マークを混乱させる有効な手立てとなり得ることだろう。

 加藤も同じく「タテの効用」を指摘する。中村俊輔を中心とした3-5-2に中田英寿を当てはめることにもなる、これもまた興味深いオプションである。

 「3-4-2-1にして2人を同時に使う。1トップ気味でトップ下の2人がタテ並びになると、オマーンは嫌ですよ。中田英と中村のどちらが、前線へ飛び出してくるのか分からないという状況は。2トップに2人のストッパーがつくほうが、マークはハッキリしますから。たとえば3バックのひとりが、FWのラインから中盤へ戻った中田英についてきたとする。そうすると、2人のストッパーとリベロという3バックのバランスは崩れる」

(以下、Number612号へ)

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