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金本知憲 背中で語る男。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2008/10/09 19:39

 あたり損ねの飛球はフラフラと中堅、左翼、遊撃の3人を結ぶ点に落ちかかる。3人とも届かないか。悲鳴に似た歓声が大きくなる中、左から走ってきた男が精一杯腕を伸ばし、落ちる間際の打球をつかみ取った。そのまま体をグラウンドで1回転させ立ち上がる。悲鳴は消えて、大きな歓声だけが甲子園球場を包んだ。

 9月12日からのタイガースとカープの3連戦。第2戦の9回表に金本知憲が演じたファインプレーである。0対0で迎えたこの回、カープは先頭打者を出し、つづく嶋重宣があわやポテンヒットというあたりを放った。もしこの打球を金本が取っていなければ、無死一、二塁と、カープのチャンスが大きく広がる。先制されれば、残された1回で打撃不振のタイガースがひっくり返す可能性は極めて低い。

 試合は、結局この回をしのいだタイガースが、延長10回の裏、矢野輝弘のサヨナラ打でものにした。ここまでの5試合で4度目のサヨナラ勝ちだった。

 勝利をつなぎとめる守備を演じた金本を見ていて、「なるほど、4番打者にはこういう貢献の仕方もあるのか」と、あらためて感心させられた。もっと正確にいうと、「一般的な4番打者」ではなく「金本という4番打者」の貢献の仕方に感心させられたのだが。

 フルイニング連続出場の記録については、あらためてくり返す必要もないだろう。大記録は依然として継続している。だが、ただ出ているだけでないことは、先に紹介したプレーだけでも十分に理解できる。40歳。鉄人といわれ、不死身の男のように思われている金本だが、もちろん好不調の波はある。このカープとの3連戦でも、安打2本、打点1と、好調とは程遠いように見えた。しかし、その中でも、試合の決定的な分岐点になるような貢献をしてみせる。4番に座る選手を過剰なほど重く見る日本の野球で、4番とは、チームリーダーとはなにかを、一番わかりやすく示してくれるのが金本なのだ。

 めったに選手を褒めない楽天イーグルスの野村克也監督だが、金本に関しては、その著書の中で手放しの賞賛をしている。

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