地道な努力の積み重ねで、着実に世界の頂点を目指す。

　昨シーズン、世界の上位へとたどり着いた伊藤は、一番までの距離を、「以前よりも縮まってきた」と感じている。それは技術面ばかりではない。

「経験豊富な人が見せる演技って、何か感じるものがあるじゃないですか。人間が大きければ大きいほど、見ている方々に感動を与えることができると思うんです。私も、いろいろなことを考えて生活してきたし、友達にも恵まれている。私、伊藤みきっていう人物のなかに、スキーだけじゃなく、さまざまな経験から学んだことがたくさん入ってきているんです」

　バンクーバー五輪を前に、トリノ五輪でのこと、それからの時間、そして現在を語るなかで、ふと、伊藤はこう打ち明けた。

「昔は、朝起きたらめっちゃ強い選手になっている、そんな夢みたいなことを待ってたんですけど（笑）、正直、現実にはないじゃないですか。地道に昨日の自分よりも今日はもっと強くなって、今日よりも明日の自分が、と積み重ねていくことでしか変われない。本当に自分を支える“素”はそうすることでしか作れないと、あるとき思ったんです。もっと派手な活躍をして『新ヒロイン誕生』、そんなストーリーへの憧れはあったんですけど、どうやら私はそういうタイプじゃないみたいです（笑）。地味なんですけど、このままゆっくり頑張ります」

　山の頂上へ登る道はいろいろある。急坂をものともせず、最短距離を進むように登る方法もあれば、ゆっくり、無理なく迂回しながら登る方法もある。言えるのは、どのようなルートを通ったとしても、頂上にたどり着くことはできるということだ。

　根っからの負けず嫌い。だから勝ちたい。

　それに見合うだけの努力を重ねてきた伊藤みきは、自分のペースと可能性を信じて、今シーズンを楽しもうとしている。

　その先に、バンクーバー五輪がある。