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<モーグル界の新ヒロイン> 伊藤みき 「世界で一番楽しむために」 ~特集:バンクーバーに挑む~ 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byAtsushi Kimura

posted2010/01/02 08:00

<モーグル界の新ヒロイン> 伊藤みき 「世界で一番楽しむために」 ~特集:バンクーバーに挑む~<Number Web> photograph by Atsushi Kimura

あらためて実感したスキーをすることの意味。

 何よりも大きかったのは、スキーをすることの意味を、あらためて感じたことだ。

「先生っていろいろなところまで見て生徒を支えているんですけど、生徒にはほんの表面しか分からないし、本当に先生をうらむ生徒もいるし、それでも先生は与え続けなければいけないじゃないですか。私がこれだけやらせてもらっているのも、必死で支えてくれている人がたくさんいるからだと実感したんです。それに、社会の人たちや仕事というものがどれだけ大変なのかが分かったことで、スキーをさせてもらっていることをあらためてありがたく思ったし、うれしくも思いました。練習も楽しくなって幸せです」

 これまでにない周囲の視線、忙殺される毎日、葛藤を抱えながら、そのなかからも学び取ろうとしてきた。ときに不安に駆られ、ときに手ごたえも得ながら、日々を重ねてきた。

 だから、次の言葉にも実感がこもる。

「もちろん体力も技術も大事ですけど、たぶん、これから一番大事なのが自分をコントロールする力、とくに感情をコントロールする力ですね。そこが私にとってキーポイントになると思います」

「金メダルを獲った人がこのお祭り(五輪)を一番楽しめる」

 国内での練習に加え、4度の海外合宿が終わり、2度目の出場となるオリンピックは、もうすぐそこに迫ってきた。

 初めてのオリンピックだったトリノ五輪の前、伊藤はこんなふうに話していた。

「オリンピックはちっちゃいときからの憧れやったし、世界の人がみんなで楽しく観戦するお祭りみたいなものだと思います」

 そんなイメージで臨んだトリノ五輪で、伊藤は発見したことがある。

「トリノでは2つ感じることがありました。全世界の人が見るじゃないですか。日本のジャージ着ているだけでもわくわくして、すごくうれしかった。それがひとつ。でも、金メダルを獲ったジェニファー(・ハイル)を見て、あれ? と思ったんですね。もちろん私も決勝に行けて自信になったし楽しかったけれど、いい滑りをした人は、表彰式でもう一度みんなに見てもらえる。ショータイムが2度ある、みたいな感じです。なんだかずるいというか、金メダルを獲った人がこのお祭りを一番楽しめるんだということを発見した大会でした。だから、今度は私が一番楽しみたいんです」

 一番楽しむために必要なこと、イコール、表彰台の真ん中。

【次ページ】 地道な努力の積み重ねで、着実に世界の頂点を目指す。

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