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小野伸二 途中出場というオプション。 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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posted2006/03/23 00:00

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[逸材の起用法(1)]小野伸二 途中出場というオプション。

戸塚啓=文

text by Kei Totsuka

 ジーコ監督の理想形が見えてきた。

 指揮官はかねてから、「システムはあまり気にしていない」と話してきた。「それよりも、選手が最良の力を発揮できる配置を考えるべきだ」と「個」の重視を強調してきた。

 その一方で、「本大会をひとつの形で押し通すのは苦しい。いろんなシチュエーションのなかでチョイスできるようにしなければ」と、チームに柔軟性を持たせてきた。ジーコ監督が使い分けるシステムは、いまや5つを数える。

 とはいっても、優先順位はある。ベストメンバーを招集した2月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦のチームが、ワールドカップのベースとなる可能性はきわめて高い。つまり、システムは4-4-2だ。

 昨夏のコンフェデレーションズカップのチームを下敷きにしたこの4-4-2は、ジーコ監督のお気に入りである。とくに中田英寿、福西崇史、中村俊輔、小笠原満男で編成する中盤のボックスは、〈黄金の4人〉からスタートしたミッドフィールドの最終的な進化形と言っていいかもしれない。ボスニア・ヘルツェゴビナ戦の前日には、「コンフェデ杯と同じ4-4-2を見たい。久保がどのように彼らに絡んでいくのかも」と話していた。

 と、いうことは。〈黄金の4人〉の原型を成した小野伸二は、ベンチスタートということになる。

 それも仕方がないかもしれない。

 MFが最激戦区と言われてきたのは、実績を残した選手がそれだけ揃っているからだ。ジーコ監督が「絶対に外せない」と話す福西は、国内組という事情はあるが、現政権下でMF最多の44試合に出場している。小笠原もボスニア・ヘルツェゴビナ戦で出場試合数を「40」に乗せた。遠藤保仁も38試合を数える。

 海外組では中村が37試合に出場している。稲本潤一は28試合で、中田英も25試合だ。

 こうした選手たちに比べると、小野の19試合は少ない。中田英とは6試合しか違わないが、その不足分を埋めるだけのアドバンテージが、すぐには思い浮かばない。小野自身も話しているように、いまの代表に彼のポジションは見当たらないのだ。

 不運はあった。とくに昨年6月1日のケガは、彼だけでなくチームの方向性をも変えたと言っていい。バーレーン戦を2日後に控えたこの日、小野はレギュラーチームのボランチに入っていた。彼と福西がダブルボランチを組み、中田英と中村が2シャドーとなる3-6-1が試されていたのだ。

 ところが小野は、紅白戦開始から10分ほどで負傷してしまう。ジーコ監督は中田英のポジションを下げ、小笠原を入れた。

 その小笠原はバーレーン戦で決勝ゴールを叩き出し、中田英はボランチで出色の出来を示した。ここからダブルボランチは、中田英と福西のコンビがファーストチョイスとなったのである。

 とはいえ、小野がチームに必要な人材であるのは間違いない。彼にはゲームを動かす力がある。流れを読み取る力がある。

 たとえば、'04年10月のオマーン戦だ。

 鈴木隆行の決勝ヘッドは中村のアシストから生まれているが、背番号10の突破を促したのは小野の素早いリスタートだった。競技が違えばダブルアシストの付いたプレーである。

 勝負の分かれ目を感じ取るこうした力は、決して錆びつかない。試合の途中からでも発揮できる。ベンチから第三者的にゲームを見つめることで、狙いどころをしっかりと持ったうえでピッチに立てる。途中出場だからこそ発揮される彼なりのビジョンは、きっとあるはずなのだ。

 ポジションはボランチになるだろう。海外組を含めたチームで、小野が攻撃的MFを任されたことは一度もない。アメリカ戦では2シャドーの一角に入ったが、3-6-1のシステムはジーコ監督のなかで優先順位が低い。

 では、小野が必要とされるのはどのような場面だろうか。

ゴール前に飛び出す小野が、

攻撃のリズムを変える。

 ひとつ目は、同点またはビハインドを背負っている展開だ。ゴール奪取のためのオプションである。ボスニア・ヘルツェゴビナ戦のように、小野を起用して中田英を攻撃的MFへ上げるシフトチェンジが有力だろう。

 0-0や0-1のスコアで投入されるボランチは、ともすれば慎重にプレーしがちだ。途中出場なりの難しさもある。小野自身も1-2の時間帯で投入されたボスニア・ヘルツェゴビナ戦後、「チャンスがあれば前へ出ようと思ったけれど、なかなか試合の雰囲気に入れなかった。何もできなかったという感じがする」と語っている。

 しかし、求められるのはより積極的な攻撃への関わりだ。ボールをさばいているだけでは、途中から出場する意味がない。

 2月に行なわれた日本の4試合すべてに共通するのは、一本調子なパスワークだった。つなぐ意識が強過ぎるあまり、リズムの変化が乏しいのである。

 そこで問われるのは、ボランチの仕事ぶりだろう。最終ラインからのパスを中村や小笠原につなぐだけでなく、ときには前線へ送るなどのアクセントをつけていくべきなのだ。プレッシャーをうまくかわしてボールをつないでも、それがバックパスであれば対戦相手には何のストレスにもならない。

 さらに味方を追い越してアタッキングゾーンへ飛び込んだり、ミドルシュートを狙うことで、攻撃にまた違う変化を生み出せる。足元へのパスが多いために決まったゾーンで決まった選手がパスを受け、それだけに相手のマークがズレない悪循環は、ボランチの動きひとつでかなり是正される。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で、最初につかんだ決定機を思い出せばいい。中村のクロスに反応してフリーで抜け出したのは、福西だったではないか。

 0-0や0-1のビハインドで小野に求められるのも、ミドルゾーンからの飛び出しだ。攻撃的な資質の発揮である。

(以下、Number649号へ)

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