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ユルゲン・クリンスマン「ドイツは強くなったのか」

 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

PROFILE

posted2005/10/27 00:00

 クリンスマンは、いつも服装にこだわる。

 といっても、おしゃれという意味ではない。そっちのセンスは皆無といっていい。ただインタビューを受けるときには、必ず契約している“マスターカード”のロゴが入った服を着る。ビジネスの匂いがぷんぷん漂っている。

 そして泊まるホテルに、異様なほどにこだわる。ドイツ代表のW杯期間中のホテルはレバークーゼンに内定していたのだが、「田舎は嫌だ」という理由でベルリンの一流ホテルに変更させたくらいだ。今回のドイツ代表のホテルも、ハンブルクのセレブ御用達のデザイナーズ・ホテルを指定した。

 10月3日、ドイツ代表の合宿がハンブルクでスタートした。

 デザイナーズ・ホテルの狭いロビーに、記者やTVクルーが殺到する。今回は中国戦も控えているので、中国人記者の姿もあった。彼らはドイツ代表のコック長を連れ出し、中華レストランの前で写真撮影をしていた。4千年の歴史を持つ彼らにとっては、試合前日に何を食べるかが重要らしい。

 続々と選手が到着するが、肝心のクリンスマンの姿がない。広報によると「今日は来ません」ということだった。まるでマスコミを避けているようだ。だが、ドイツ人記者たちは怒らない。その翌日に、クリンスマン監督の会見がセッティングされていたからだ。

 デザイナーズ・ホテルには会見場なんて気の利いたものはないから、アルスター湖沿いの“リテラトゥーア(文学)・カフェ”という名前の小さな喫茶店に記者は集められることになった。天井にはきらびやかなシャンデリアがあり、年代もののテーブルが置いてあるのだが、いかんせん部屋が狭い。部屋は記者で溢れかえり、クリンスマンを取り囲むようにして人が座った。

 いつもだったら、フレンドリーな様子で会見は進んでいっただろう。

 しかし、この日は状況が違った。会見は静かに、淡々と進んだ。まるで「最後の晩餐」ででもあるかのように──。

 クリンスマンは、就任して以来、初めて大きな批判にさらされている。

 きっかけは、8月のオランダとの親善試合だった。ドイツの守備はアリエン・ロッベンにずたずたにされて2失点。その後なんとか2点を返したが、すでにオランダは主力を引っ込めBチームとも呼べるメンバーだった。

 9月のスロバキア戦が追い討ちをかける。この試合でも守備が崩壊し、ドイツは格下相手に0対2で完敗してしまった。クリンスマンはGKを競争させるためにローテーション制を採用しており、この試合に使ったのはアーセナルのレーマンだった。代表に呼ばれなかったバイエルン・ミュンヘンのカーンは、のん気にミュンヘン郊外でゴルフを楽しんだ。TV撮影を許可し、カメラの前でカーンはドライバーをフルスウィングする。クリンスマンへの当てつけであるかのように……。

 スロバキア戦の試合後、TV解説に来ていた“皇帝”ベッケンバウアーは、生放送中にクリンスマンに説教を始めてしまった。

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ユルゲン・クリンスマン

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