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ソフトバンクホークス 斉藤和巳「あの悔しさは忘れられない」 

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永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

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posted2005/10/13 00:00

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[勝利を我が手に]ソフトバンクホークス 斉藤和巳「あの悔しさは忘れられない」

永谷脩=文

text by Osamu Nagatani

 レギュラーシーズン最後のマウンドとなった9月25日の西武戦、斉藤和巳は9回裏2死でマウンドを降りた。西武の先発は松坂大輔。斉藤が「相手チームの主砲との速球勝負が許される男」と認める投手だった。

 「相手のエースとの対決では、絶対に先にマウンドを降りてはいけないんです。どんな形でもチームの勝ちにつながるピッチングをしなければダメなんです」

 この日、松坂は5回で降板、エース対決には勝ったが、リリーフをあおいでの122球の勝利には試合後不満を覗かせていた。

 そんな斉藤が今シーズンの目標としたのは“負けない投手”になること。肩痛のため初登板は開幕から1カ月後だったが、見事初勝利を挙げると、その後は目標通りの投球で開幕から15連勝という日本タイ記録を達成した。この記録を王貞治監督は「相手のエースと対戦しての記録だから立派だ」と褒め称えた。好調の理由を尾花高夫投手コーチは「球種が増えたわけではないし、キチンとした体調管理をしているからかな」と話していた。一昨年20勝しながら、昨年10勝に終わり、期するものがあっただけに、斉藤も今シーズンの成績には手応えを感じている。

 「自分でバッターを抑えているという感覚はこれまでよりあります。それが自信になっている。トレーニングとかを含めて、自分の中でこれからにつながっていく一年にはなっているとも思います。やっていることはこれまでと大きく変わったわけではないんですけど。トレーニングをする上で基本が重要なのは間違いないんです。ただ、それをプレーの中で外すというか、応用していくという。ここらへんは言葉にするのがすごく難しい非常に感覚の世界なんですけどね」

 さらに、斉藤は今シーズン途中から新しい試みに挑戦している。自らのHPを開いたのである。

 「プレー以外でファンとの交流をしたいという気持ちが以前からあったんです。昨年はストもあったし。それと一昨年の日本シリーズ、甲子園で3連敗して福岡に帰ってきた時、もの凄い数のファンの方たちが温かく出迎えてくれた。それで涙が出そうになったし、そんなファンの人たちの心に何か感謝をしたいと思ってHPを始めたんです。ただ勝ちたいというところではない部分で、トレーニングをしたり、マウンドに登ったりしているんです。今の気持ちはみんなで勝ちたいというもの。勝って、チームの裏方さんやファンの人たちと喜びを分かち合いたい。そう考えると辛いことも乗り越えられるんです。いつ頃からか自分一人のために頑張ったとしても寂しい、得るものが少ないなと思い始めたんですよ」

 王監督が現役時代の巨人は、日本一の前にはどんな犠牲も払う集団だった。秋山幸二や工藤公康のいた西武も優勝のためには、個人記録など関係ないというチームだった。そんな強者の伝統はいま、ソフトバンクの中に受け継がれている。斉藤もそうしたものを体現している。投手陣のリーダーでありながら、ホームゲームでは、誰よりも早く球場入りし、トレーニングしているのだ。

 「プロの世界にいる人間は我が強い人が多いけれど、勝つためにそれを取り除くことも必要ではないかと思うんです。自分だけではなくチームとして勝ちたいという気持ちがあるからこそ“我”を取り除かなければいけない時もある。ホークスという強いチームでプレーできていることは恵まれていると思います。“勝つこと”へのこだわりを与えてくれたんです。僕は小久保(裕紀)さんの姿を身近で見ながらやってきた。城島さんや松中さんもそうだと思います。その小久保さんは、工藤さんや秋山さんの姿を見て育ってきた。いいものは下に受け継いでいって、チームの財産にしていけばいい。技術だけではなく、心の部分は一人で伝えようとしても難しいんで、いまのいいチーム状態の中で若い選手に伝えていければ強い時期は続いていくと思うんです。それに他のチームの選手から刺激を受けることも多い。例えば、工藤さんや山本(昌)さん。吉井 (理人) さんとかの一度、クビになって、またプレーされている姿を見るといい勉強になります。故障で投げられない時があったから、そう感じるのかもしれませんね。マウンドに立つことの大切さを感じられるようになったのは、僕にとっての財産です」

(以下、Number638号へ)

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