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打たれた球をどう生かすか、です。 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

posted2004/05/06 00:34

 第2戦、6点をリードされた6回のことだった。2回に、若田部の内角ストレートをレフト越えの二塁打にしたゴメスを迎えての無死二、三塁、城島の要求は内角ストレートだった。案の定、ゴメスはレフト線に二塁打を打った。これで、ゴメスは左投手の投げる内角球には強い、というデータが正しいと城島は確信し、初戦に工藤が攻めたように、内角をボール球にするか、外角に逃げる変化球が有効と判断したのだった。

「データ通りかどうか試してみよう、と思ったのは大量リードを奪われていたからです。7戦全体をトータルに考えていたから、思い切って勝負に行けた。第3戦以降、打たせない自信もあったし、現にそれ以後、ゴメスには打たせていません。日本シリーズのような短期決戦では、打者は、こう攻めてくるな、と思っていてもなかなか修正が利かない。一場面一場面にこだわるとできないことも、勝負全体をトータルとして見れば、分かってくることも多いのです」

 この日本シリーズの経験は、城島にとって大きな財産になった。それは3度目の昨年の日本シリーズでも十分に生かされている。

「日本シリーズでは、1、2戦を終えたとき、戦前のデータをどのような形に修正していくかが鍵を握っている。ミーティングでは、こう攻めていけば大丈夫だ、ということは説明がつくのですが、実際にはデータ中心で行くと消極的になってしまう。それを城島のリードが見事に打ち消してくれたのです」と豊倉スコアラーは振り返った。

 昨年の日本シリーズでは、データ通りに、金本知憲を外角のスクリュー系のボールでどう打ち取るか、ということが城島のテーマだった。データを生かすにはどうすればいいか、史上稀に見る大接戦の中で、阪神の主砲・金本をいかに封じるかが鍵になっていた。福岡ドームで連勝したダイエーは、甲子園球場で3タテを喰らう。金本に悉く、内角球をスタンドに運ばれていたのだ。

 このとき、王監督は城島に新幹線の駅頭で声をかけていた。

「いつもの城島らしくやれ、って言われました。自分では変わっていないつもりでいたけれど、外から見るとそうなのかな、と思い直して、自らを省みることにしたのです。どこかで大胆さが欠けていたのかもしれないと思い直しました」

 元コーチだった若菜の言う、尊敬する人の言うことを素直に聞けるという性格がここでも発揮された。再び、福岡ドームに戻ってきた第6戦、金本に対して、先発・杉内には内角に思い切って速球で勝負させた。誰もが怖がっていた内角を大胆に攻める。しかも、第3、4打席は速球で空振り三振に打ち取ったのだ。

「あのシリーズは第6戦で杉内が思い切って内角を攻めてくれたことが、第7戦に繋がったと思っています。和田が抜いた球で凡フライを金本さんに打たせ、桧山さんを外角球で泳がせて併殺に打ち取ることができた。うちは同じような場面で得点できた。初回が全てだったのです。シリーズでは、結果だけを追っていては、流れを自分の方に呼び込めないし、打たれることはあっても仕方がないで済ますのではなく、それを自分の記憶の中で、どのような形で留めておくかが勝負の鍵になってくる。自分は学校の成績は決していいとは思わないけれど、記憶に関してはそんなに負けないものを持っています。勝負というのは、結局のところ、打たれた球を次にどう生かせるかじゃないですか」

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