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“世界のTK”高阪剛ד闘う東大教授”松原隆一郎「吉田・桜庭の秘密に迫る」 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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posted2005/05/12 00:00

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[対談道場]“世界のTK”高阪剛ד闘う東大教授”松原隆一郎「吉田・桜庭の秘密に迫る」

布施鋼治=司会

host by Koji Fuse

 ――お二人はどうミドル級を観てますか?

松原― こないだの武士道を観て、トップ選手の動きがどれだけ速いかわかった。決め技とされている技がなかなかきまらない。それはそれで魅力だと思いました。ヘビー級だと、ある程度の技術があって体重をかけていったら何とかなっちゃうみたいな試合がありますが、ミドル級だとないのが面白いですね。

高阪― 今、ミドル級は93kgが上限ですけど、日本人の選手はこのあたりが限界なんじゃないかという気がするんですよ。試合めざして、トレーニングして、スパーリングこなすと一日、5、6時間練習するんですね。ヘビー級で、技術をキープしながら、体重をキープするのは日本人には難しいんじゃないですかね。

 ――ヘビー級の自分はどうなんですか(笑)。

高阪― 自分はおかしい(笑)。'96年くらいからアメリカに行き始めたんですけど、練習してみて思ったのは、ミドル級でいいものを持っているんだけど、出し切れていない選手がものすごく多かった。

 逆に日本では、ミドル級の選手、桜庭(和志)さんや田村(潔司)さんが活躍し始めたんですね。それが、あれよ、あれよという間に海外のミドル級の選手がドンドン力を付け出してUFCでも活躍するようになって、日本にも入ってくるようになった。おおまかに言うとそんな流れだと思いますね。

松原― PRIDEのルール自体も変わりました。初期は打撃系がものすごく不利なルールで、四つんばいでヒザ蹴りできなかった。今は、そこから蹴るのも許されるようになった。その上に技術も伸びてきた。それ以前は、桜庭さんみたいに寝技は寝技で、立ったら立ったできっちりできる人が強かったんだけど、今はルール変更のせいでマウリシオ・ショーグンみたいにゴチャゴチャになって蹴るとか、上から踏み潰すみたいな、ゴチャゴチャの隙間のところで強い選手が出てきている気がします。ヒョードルもそうかもしれませんけど、合間のなんて言うか……。

高阪― “際”の部分。最近強いやつというのは、際で打撃をきちっと打てる。前まで強かったのは、際で関節をしかけられるとか、ポジションをとれる選手が強かったんですけど、そこをスキップして、相手を倒せる打撃を際で打てるのが出てきているので、自分らも対策しなきゃいけないなと練習しているんですけどね。

吉田の不思議な力、桜庭のきめる力。

 ――高阪さんは、吉田秀彦選手の指導もしておられますけど、ミドル級の選手としていかがですか。

高阪― 不思議な力を持っているんですよね。その場面、場面で帳尻をあわすみたいなところがあるんです。それは秀彦が本気になった時にしか出ないんですけど。

松原― 僕はむちゃくちゃにヘッドロックが強いんじゃないかなと思ってるんです。上腕の力が異常に強いって言いますよね。

高阪― 自分らはチカラス腱固めと呼んでるんですけど、アキレス腱が力できまる(笑)。

松原― ホイス・グレイシーと闘ったデビュー戦を観てると、立っている力もすごい。いくら引きずりこもうとしても、もう根が生えたみたいに、絶対こけないですね。あれは他の競技出身の総合の選手にはない。

高阪― 一回一回ならできるやつはいるんです。でも、秀彦は最後までやりとおせる、持続することができるんです。

 それと、あのデビュー戦の時に、すごく期待もされて、いろんな思いがあってリングにあがるんだから、これは緊張してんだろうなと思ってたら……。

松原― ニコニコ笑ってましたね。

高阪― なんじゃ、こいつ、こっちが気つかって損したわ(笑)、と。

松原― やはり、オリンピックで周囲の期待があまりにも大きかったから。自分だけのプレッシャーだと、楽しめちゃうんじゃないですか。オリンピックってよほどすごいものだったんだなと、あの時、逆に思いましたね。

 ――桜庭さんはどうですか。

高阪― 触ってみて「この人は強いなあ」と思える、間違いなく五本の指に入る選手ですね。見た目は力を抜いているように見えるんですけど、きめる力がものすごく強いんですよ。スリーパーをやっても、首がきまっちゃうんです。いわばネックロックみたいになる。

 結局は自分を知るってことだと思うんです。自分をどれだけ、どういう場所に持っていけば、これだけの力が出せる、一番いいところを引き出せる、それをわかっている人ですね。

 ――空手出身の長南亮選手は?

松原― 僕は総合でしか観てないんですけど、顔面のパンチにも最初から適応できてますね。

高阪― 単純にあてるのが上手い。外国の強豪選手が試合で来日して、試合前に一緒に練習したんです。タックルにドンピシャでヒザがあってしまって、その選手、一日中記憶がなかった。試合前の練習なので、そんなにがっちりやらないのに、そのタイミングがとれるというのもすごい。いろんな選手が顔や体を腫らしているのは、大体長南君とスパーリングした時です(笑)。

 ――美濃輪育久選手はどんな感じですか。

高阪― 自分はああいう選手は気持ちがいいから好きなんですよ。

松原― 河原で練習してましたけど、練習環境として何を考えているんですか。

高阪― いやあ、よくわからないんです(笑)。

松原― 普通、選手はこういう試合をしたいと、逆算して体を作りますよね。彼は何をしたいのか、全くわからない。

高阪― ある意味、昔の新日本プロレスを脈々と受け継いでいるような気がするんですよね。一日スクワット3000回みたいな(笑)。

 ――彼のブラジル修行の時に取材で通訳を連れて行ったら、ブラジリアン・トップチームが喜んで、「彼にこれを言ってくれ」とまず言われたのが「なんで休まないんだ。体に悪いから休むように言ってくれ」(一同爆笑)。本人に伝えると喜んで「明日からもっと練習します」。

高阪― ある意味、真面目だと思うんですね。こうだと思ったことをやり続ける気持ちが途切れない。

“素人”だった須藤元気、一番変わったのは中村。

 ――松原さんの気になっている選手は?

松原― もともと須藤元気選手が好きなんですよ。最初評判悪かったですけど、入場の時のコスチューム着たパフォーマンスなんかも好きだったんです。やっぱりプロでしょ?― それぐらいの余裕を持っていてほしい。試合にもいろんな伏線が張ってある。そういう知的なところがおもしろいですよね。

 ホイラー・グレイシーに勝ったのは、一大事件だと思います。最近の総合格闘技の歴史の中では。同体重では、ホイスに勝つよりよっぽど難しいじゃないですか。

高阪― あのクラスではそうですね。元気君は、本当に頭がいいというのが、一番最初にきますね。それに、さっきの“際”で勝負する時と勝負しないで相手を泳がすのをうまく使い分けるんですよ。無駄がないんですよね。

松原― 彼はレスリングなのか柔術なのか、キックなのか、全然ベースがわからない。全部一体化してるから。

 ――キックボクシングの関係者もセンスや距離のとり方を絶賛してますよ。「この子、何やってたの」とみんな聞きます。「いや、素人です」としか言いようがない(笑)。

松原― 高阪さんも完全に変形して原型とどめてないですよね。

高阪― 自分は最初リングスに入って、スパーリングした時に、これはダメだと思ったんですよ。自分が頭の中でイメージしている動きをやれば、間違いなく勝てない。だから、もうとにかく、忘れるように忘れるように意識してました。だから、まあ時間はかかったんですけど、ある程度、総合の形に持っていくことができたと思うんですけどね。勝負の世界なので、もう全部捨てていくぐらいの気持ちじゃないとまず成立しない。

 ――今、そういう覚悟を感じられる選手は?

高阪― 一番変わったなあと思うのはカズ(中村和裕)なんですよ。

松原― 僕もそう思いますね。

高阪― 普段、ああやってへらへらしてますけど、練習の態度や試合に対する姿勢が変わったんですよ。ムリーロ・ブスタマンチとの試合で判定勝ちして「すいませんでした」と言った。ムリーロをコントロールして、判定で勝つだけでもすごいことだと思ったんですけど、本人の中では全然納得できてなかった。

松原― 柔道をやめて、1年ぐらいであそこまで打撃がうまくなったというのは、はっきりのめりこんでやっている証拠だなと思いました。中村選手も柔道出身ですけど、柔道は日本ではものすごく層が厚い。メダルとってなくて、精神的に燃え尽きていない二番手の層、めちゃくちゃ身体能力が高くて、すごい選手が結構いるわけです。全体で立ち技を含めると勝てないけど、寝技だけ強い選手も地方に隠れていたりするじゃないですか。この層が総合格闘技に入ってくると、それなりにアジャストしてくるんじゃないですか。

高阪― そうなんです。実は自分はそれをずっと待ってるんです。そのあたりの選手で、本気になってくれるやつがいれば、変わるなあと。確かにちょっと前だったら、実業団で十分生活ができた。それが淘汰されてきている状況なので、ギャンブルしてみる価値はある。

松原― すいません、一つ聞いていいですか(笑)。結局、おっしゃってたヒョードルの穴というのはなんだったんですか。

高阪― ヒョードルともう1回やるかもしれないので、ここからはオフレコで(笑)。

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