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チャンピオンズリーグビッグクラブの逆襲なるか。 

text by

西部謙司

西部謙司Kenji Nishibe

PROFILE

photograph byMichi Ishijima

posted2004/09/22 08:29

 今季のUEFAチャンピオンズリーグのテーマは、ビッグクラブの逆襲だ。

 昨季は、この大会で中堅どころに位置するクラブの躍進がメインテーマだった。優勝したFCポルト、準優勝のASモナコ、ベスト4に入ったデポルティーボ・ラ・コルーニャといった中堅クラブが、レアル・マドリー、ACミラン、マンチェスター・ユナイテッド、ユベントスといったビッグクラブを打ち倒していった。

 中堅クラブの躍進は、ここ数年の移籍市場の冷え込みが大きな要因になっていた。それまではビッグクラブに中心選手を引き抜かれてしまうことからチーム作りがままならず、中堅クラブにとって命綱となる組織力、チームプレーを突き詰めることができないでいた。それが、移籍市場が冷え込んだことで主力選手を維持できるようになり、2~3シーズンをほぼ固定したメンバーで戦えるようになったことで、中堅クラブがビッグクラブに対抗できる下地を作っていたのが昨季だった。

 しかし、そうはいってもあそこまで中堅クラブが躍進したのは予想外で、ビッグクラブの自滅という側面があったことも確かだ。

 イタリア、イングランド、スペインのいわゆる欧州3大リーグのチームが、昨季のファイナルに進めなかったのには、厳しい自国リーグとチャンピオンズリーグの二兎を追う難しさが表れている。ビッグクラブには各国の代表選手が多数含まれていて、その面でもコンディションの維持は容易ではない。

 中堅クラブとの実力が僅差に縮まる中、ビッグクラブの抱えているさまざまな“無理”が表面化し、番狂わせの連続となった。

 ビッグクラブに残された教訓は、この大会を勝ち抜くにはあらゆる面で万全でなければならないということである。

 レアル・マドリーは逆襲の準備を整えた。毎年、1人のビッグスターを獲得する方針はオーウェンの加入で継続されているが、それよりも注目すべきは守備のテコ入れ。アルゼンチン代表のサムエル、イングランド代表のウッドゲイトを補強した。もう攻撃のスターを補強する必要がないのだから、弱点だった守備に目がいくのは当然とはいえ、これまでの営業優先から、より現実的なチーム作りへの方針転換がうかがえる。

 昨季、アブラモビッチのオーナー就任で一躍ビッグクラブの仲間入りを果たしたチェルシーは、ポルトを優勝に導いたモウリーニョを新監督に迎えた。モウリーニョはすぐに膨れ上がったスター軍団を整理、チームをスリム化。豪華な陣容を持つチェルシーにポルトで成功した一枚岩の戦術を植えつける。

 選手の質量ともに申し分ないにもかかわらず、それに見合った戦績を挙げられなかったインテルはマンチーニを監督に招聘、リバプールも気鋭のベニテス監督を迎えた。この2チームも、タレントを生かしきるための組織、戦術、チームスピリッツを注入できるかどうかがテーマである。

 切り札ロナウジーニョを擁するバルセロナは、デコやジュリーなど魅力あるアタッカーを加入させ、戦力的にはトップクラス。2シーズン目を迎えたライカールト監督の手腕が問われる。

 すでにスタイルが完成されているミラン、ユベントス、アーセナルに新味は薄いが、安定感はある。戦術、組織の整備にとりかかった他のビッグクラブがそれに失敗すれば、この3チームに有利な展開になりそうだ。

 一方、中堅クラブはあくまでも手堅い。デコを引き抜かれたポルトはブラジルのサントスからジエゴを補強。これがはまれば、あとはすでに完成の域にある。モリエンテスをレアル・マドリーに返却したモナコは、すかさずサビオラを獲得した。同じストライカーでもタイプが違うのでフィットするかどうかは未知数だが、ここも大枠に変化はないだろう。デポルティーボ、バレンシアも組織力の水準は高く安定している。

(以下、Number611号へ)

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