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早稲田大学vs.関東学院大学 波乱と必然。 

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村上晃一

村上晃一Koichi Murakami

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posted2007/01/25 00:00

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[大学選手権決勝速報]早稲田大学vs.関東学院大学 波乱と必然。

村上晃一=文

text by Koichi Murakami

 決勝戦前日の練習後、関東学院・春口廣監督は達成感ある表情で言った。

 「もう、頂点に立っているような気がする。毎年決勝前は誰か怪我しているけど、今年は一人もいない。チームの仕上がりがこんなにいいのは初めてだし、不安がない」

 万全のコンディションに対する自信のコメントは、昨季決勝前、早稲田・清宮克幸監督が発した言葉と似通っていた。

 6年連続の決勝対決である。過去5年の戦績は早稲田の3勝2敗。だが、清宮監督はもういない。早稲田を率いるのは1年目の中竹竜二監督である。

 下馬評は、3連覇を目指して今季公式戦負け無しの早稲田有利に傾いていた。FW戦は五分、BKの決定力で早稲田が上という見方である。ただし、中竹監督は気を引き締めた。

 「お互いシンプルに力を出せるかどうかが勝負。やってみなければわかりません」

 ブレイクダウン(ボール争奪局面)とラインアウト。勝敗を分けるポイントはここに集約されていた。決定力ある早稲田のボール支配を乱さなければ、関東学院の勝機はない。春口監督のプランは明確だった。

 「こちらのやることは決まってますよ。ラインアウトでプレッシャーをかける。前後半80分を10分刻みの8ラウンドと考える。最初の10分で1本トライをとりたい。ディフェンスのプレッシャーで1本だね。第1、第5ラウンドは一番大切」

 早稲田の攻撃起点をつぶすことに焦点を絞り込み、8ラウンドの意識で集中力を持続させる。10年連続決勝進出の手腕はものの見事にチームの意思を統一させた。

 1月13日、午後2時、キックオフ。

 風上に立った青い波が赤黒に襲いかかった。開始1分から3本連続した早稲田ボールのラインアウトのうち2本を奪取。身長196cmの西、194cmの北川というツインタワーの威力は絶大だった。早稲田は最長身のFL豊田ですら188cmである。劣勢を見越して決勝戦用の新しいサインプレーを試みたが、強風も影響してミスを連発。想像以上のプレッシャーに浮き足立つ王者を尻目に関東学院は波に乗った。

 前半9分、密集サイドを執拗についたSH吉田が先制のトライ。21分には、WTB朝見がタックルをかいくぐってゴールポスト下へ走り込む。ともに早稲田ボールのラインアウトを奪っての攻撃だった。

 「FWはラインアウトでボールをとったら1mでも前に出ろ。そうすれば、その勢いでBKも走れる」。春口監督の指示が浸透し、関東学院はすべての局面で前に出続けた。

 29分にはFB山下がインゴールに駆け込み、3連続トライ。SO藤井が難しいコンバージョンを決めて、21-0と大量リード。青いジャージーは、生き生きとグラウンドを駆け回り、第3ラウンドまでを完全に支配した。

 しかし、早稲田も簡単には引き下がらない。前半35分、SH矢富がPKから速攻を仕掛けてリズムを作り、最後はWTB首藤がタックルを振り切ってトライ。37分にはWTB菅野が50mを走りきり、12-21の9点差として後半に望みを繋いだ。

後半、早稲田の組織が崩壊していった理由。

 ハーフタイム。早稲田の中竹監督は、ラインアウトの修正などを指示し、「後半は走り回って今年の早稲田の完成型を出したい」と意気込んだ。だが、後半立ち上がりに予期せぬ事態が連続して起きる。

 後半1分、キャプテンのFL東条、9分、バイスキャプテンのLO後藤が負傷退場、12分には、東条に代わって入ったFL松田が負傷し、本来はHOの控えである臼井を投入する緊急事態となる。この間、関東学院はボールを保持して積極的に攻め、FL竹山、NO8土佐の突進からWTB朝見がトライ。28-12 と突き放し、勝敗の帰趨を決した。

 理想のプラン通り、第5ラウンドも制した関東学院は、以降も、CTB高山、櫻谷を筆頭に早稲田の攻撃起点を押し込み続けた。苦しいタイミングでボールを前に運ぼうとする早稲田は、SH矢富、SO曽我部らが個人技で局面を打開しようと、少しずつ無理をし始める。個の強さに組織で対抗する「早稲田ラグビー」は完全に崩壊していた。

 「早稲田をチームとして大きく見ると萎縮してしまう。矢富は一人、曽我部も一人。それぞれ一対一で勝負してみろって言ったんです」。ベテラン監督の指示は的確だった。

 早稲田が流れを引き戻すチャンスはあった。後半17分、WTB首藤が、左タッチラインで相手のパスミスを拾ったシーンである。誰もがトライへの独走をイメージした刹那、関東学院HO田中の指先が首藤の足首を払う。抜け出していれば早稲田勝利の可能性が大きく膨らむピンチを、スピードでは劣るはずの田中が止めた。チームの充実を示す値千金のプレーだった。

 「(去年の決勝で)負けて学びました。嬉しいの一言です」(春口監督)

 3年ぶり6度目の優勝は、豊富な経験に裏打ちされた会心の勝利だった。

 早稲田も3連覇するに十分な戦力を有していた。FW戦を制圧されながらの7点差はチームの底力を示している。ややFWの力強さには欠けたが、だからこそ中竹監督は、プレーとプレーの間を素速くし、動き回るスタイルを作り上げてきた。ただ、決勝戦の80分に今季の力を集約することはできなかった。守勢に回ったときの意外なほどの脆さは来季への課題だろう。

 表彰式後、早稲田のメンバーが関東学院ベンチに歩み寄る。互いに一礼の直後、小柄な大監督が宙を舞った。その歓喜を敗者が見据える。最後まで動かなかったのは、来季、赤黒ジャージーの中心選手となる3年生のLO権丈である。

 両雄のライバルストーリーが、来季へとつながった瞬間だった。

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