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<甲子園特集> 中田翔を変えた斎藤佑樹の17球。~4打席全対決を振り返る~ 

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渡辺勘郎

渡辺勘郎Kanrou Watanabe

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photograph byHideki Sugiyama

posted2009/08/05 11:30

<甲子園特集> 中田翔を変えた斎藤佑樹の17球。~4打席全対決を振り返る~<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 3年前の夏、2年生の“怪物”スラッガーは、一人の静かなエースの前に4打席3三振を喫した。自身にとってもチームにとっても想定外の敗北――。両者の雌雄を決したポイントは、どこにあったのか。

「これ、ボールでしょう? こうやって改めて見たら、メッチャ高いですねぇ」

 淡々と話していた中田翔の声のトーンが急に変わり、新発見でもしたかのように同意を求めてきた。3年前の夏の、あの4打席を振り返るため、モニターに第1打席の、それも第1球の様子が映し出された瞬間だった。

「打席にいたときは、ああストライクか、という感じで受け取っていて、ボールだなんて全然思っていなかったんですけどね」

 どこか他人事のように聞こえる語り口。だからこそ逆に、どれほど悔しかったかが伝わってくる。その悔しさこそが、プロではバットマンとして生きる道を選んだ彼の出発点にもなっているのだ。

「天狗になっていた」中田、斎藤は「ノーマークでした」。

 2006年8月12日、第88回選手権大会の7日目第4試合。2年生の中田翔が4番に座る大阪桐蔭は早稲田実業のエース・斎藤佑樹と対峙した。早実は開会式直後の第1日目に鶴崎工業を13対1で下し、大阪桐蔭も同日、横浜を11対6という大差で破っての2回戦進出。第2戦までのインターバルは共に5日間。相手を分析する時間は十分あったが、中田は斎藤を「ノーマークでした」と振り返る。

「自分たちの力を普段通り出せば手こずるピッチャーではないだろうと周りも言っていたし、自分もそう思っていました。

 今思えば、ホッとした部分が絶対にありました。横浜戦の後のことは一切、考えていなかったですからね。あの横浜にあれだけ大差で勝てたので、チーム全員が天狗になっていたとも思います」

 前年夏、優勝した駒大苫小牧に屈したものの4強入りした大阪桐蔭。その中軸でプロも注目する中田が残ったチームの下馬評は高かった。1回戦で下した横浜は、この年のセンバツの覇者。これで大阪桐蔭が波に乗って一気に優勝、という可能性が生まれたわけで、中田たちが天狗になるのも無理からぬ部分があった。そんな心理が相手の早実に有利に作用したのは間違いない。全て結果論だが、甲子園を制するチームには必ず、こんな“追い風”が吹く。何しろ早実は、この時点では全く優勝候補に名前の挙がるチームではなかったのだ。そのエースである斎藤も、ほとんど一人でマウンドを守っていたからスタミナは評価されていたが、さほど注目される存在ではなかった。

<次ページへ続く>

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