SCORE CARDBACK NUMBER

全日本選手権の意義は伝統と名誉だけなのか。 

text by

吉松忠弘

吉松忠弘Tadahiro Yoshimatsu

PROFILE

photograph byHiromasa Mano

posted2004/11/18 00:00

全日本選手権の意義は伝統と名誉だけなのか。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

 日本で最も軽い天皇杯。ある人は、テニスの全日本選手権のことを、このように称した。天皇杯でなくとも、全日本選手権と名が付く大会にトップ選手が欠場することなど、他のスポーツでは考えにくい。しかし、14日から始まる今年の全日本テニス選手権シングルスに、世界ランキング上位10人の内、男子は2人、女子は6人が欠場する。男女のエース、鈴木貴男、杉山愛はともに出場しない。

 全日本は、今年で男子が79回、女子は77回を数える。第1回は'22年(大正11年)に開催された国内最古の大会だ。世界のツアー制度と世界ランキング方式が確立する前まで、全日本のタイトルは伝統と名誉に加え、世界への道に直結していた。例えば、ウィンブルドン本戦出場128人を決める基準は、各国の?1であり、日本の?1は全日本優勝者だった。しかし、世界は'68年にプロ選手に門戸を開放するオープン化で激変した。'70年に現行ツアー制度が発足し、'73年にコンピュータ世界ランキングができ、各大会がエントリーに採用するようになると、全日本の世界への道が見えなくなっていく。世界ではプロテニスのシステムが整備されていく中、全日本は'75年まで出場選手をアマチュアに限るなど、完全にプロ化に乗り遅れた。世界ランキングとは今でも無縁である。

 現在の全日本の存在意義とは何なのか。主催の日本テニス協会は「日本一を決める大会」と力説する。しかし、選手にとっては、その日本一が、どのように世界に直結するかが問題なのだ。世界ランキングが懸かる大会に変貌することは、ジャパンオープンというツアー大会を協会は抱えているため、現実的ではない。つまり、頼るところは日本一の伝統と名誉、そして賞金しかないのが現状だ。ただ、居丈高な伝統や名誉を振り回さず、選手や観客のためのサービスに徹すれば、選手に出たいと思わせることは可能である。ジャパンオープンが「テニスのお祭り」という明確なビジョンを掲げて成功したように、全日本も選手や観客が満足するようなサービスに徹することだ。今年は、14歳の天才少女、森田あゆみの出場など、女子の若手の話題に事欠かない。話題を作り、どんどんアピールし、選手に心地よくプレーしてもらう。それでこそ初めて、伝統や名誉は生きてくる。

ページトップ