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「小よく大を制す」。だから相撲は面白い。 

text by

服部祐兒

服部祐兒Yuji Hattori

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posted2007/02/22 00:00

 朝青龍は序盤でつまずくと意外と脆い。そんな風評はまったくのでたらめだった。

 平成19年初場所は、横綱が地力の違いを見せつけ、4場所連続20回目の優勝を楽々と成し遂げた。幕内在位37場所にしての優勝20回の大台達成は、大横綱大鵬の39場所を抜く最短記録である。年頭に掲げた自己の連勝記録更新こそ3日目に途切れたが、翌4日目から再発進。記録更新の夢を春場所以降に持ち越した。

 年末はモンゴルに帰郷し、ほぼぶっつけ本番で臨んだ本場所だったが、揺るぎない自信は微動だにしなかった。よく朝青龍が口にする言葉がある。「休みでも完全休養しているわけじゃないよ」。誰も見た者はいないが、ひょっとしたら朝青龍は隠れた所でとんでもない秘密特訓をしているかも……。そんな妄想すら湧いてくる強さと貫禄だった。

 不甲斐ない大関や上位陣に代わり、初場所を救ったのは、幕内で最も体重の軽い124kgの安馬と最も身長の低い168cmの豊ノ島の小兵コンビ。2人は「小よく大を制す」の相撲の醍醐味を存分に披露してくれた。

 安馬は年末に交通事故で父を亡くした。同乗していた兄も重傷で入院。事故を起こした車は、安馬がプレゼントしたものだったという。モンゴルに緊急帰国し、場所直前に戻ってきたものの、声すらかけられない憔悴ぶり。「かわいそうと思われたくない」と気丈に勤めた15日間は、正直痛々しかった。一番大事なときに1人にせざるを得なかった母と、天国で見守る父に気力で贈った10個の白星。この白星が安馬にとって後々、貴重な血となり肉となることは言うまでもない。

 一方の豊ノ島は今場所でブレイク。平成13年に新設された第2新弟子検査出身の唯一の関取として話題を集めたが、幕内ではあまりパッとしなかった。しかし、今場所は大変身。少年時代から身につけた両差しの技術に、前に出る圧力と多くの技を合体させた。12個の白星中、決まり手は8。業師ぶりを遺憾なく発揮して「新・技のデパート」襲名もささやかれ始めた。来場所新三役が濃厚な琴奨菊とは、中学・高校時代からのライバル。やや水を空けられたが、再び同じ土俵で雌雄を決する。父から熱望された年内での結びの取組も、大きく現実味を帯びてきた。

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