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日本代表・山岸にみるGKのコーチングとは。 

text by

浅田真樹

浅田真樹Masaki Asada

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2006/10/26 00:00

日本代表・山岸にみるGKのコーチングとは。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 GKのコーチング、すなわち、後方から味方へ指示を出すことが重要なのは、机の上では分かっていた。だが、実際の(例えば、J1クラスの)試合では、GKの声がスタンドまで聞こえてくることはほとんどない。だから、現実には、「遅らせろ!」「縦切れ!」などの定型フレーズを状況ごとに使い分けている程度、と高を括っていた。失礼ながら。

 目から鱗、とはこのことである。

 ガーナ戦を控えた、日本代表の練習をスタンドから眺めていたときのことだ。一際、ピッチによく響く声が聞こえてきた。声の主は、GK山岸範宏である。

 単純に声が大きかったこともある。確かに、誰よりも大きく、よく通る声ではあった。だが、その声が印象深く耳に残ったのは、実にきめの細かい、具体的なコーチングだったからだ。優れたパサーを「ピッチを俯瞰しているよう」などと形容することがあるが、山岸もまた、それができているかのようだった。

 例えば、味方がクリアした後では、ただ「(DFラインを)上げろ!」ではなく、「(ペナルティ)エリアから出ろ!」だったり、カウンターに備える味方に対しては、「少し下がれ!」ではなく、「2m後ろ!」といった具合である。GKの声を直接耳にする機会が限られていたにしても、こんなコーチングを聞いたのは、初めてだった。

 山岸本人によれば、コーチングに大切なのは、「すでに起きていることではなく、これから起きる可能性があることをDFラインに意識させる」ことなのだが、「分かりやすさは大事だけど、言葉が簡単すぎると伝わらない」。その姿勢が、件の表現に表れているわけだ。

 とはいえ、山岸の口からは速射砲のように、次々指示が飛び出してくる。そのすべてをDFが消化できるとは、とても思えない。まして浦和の試合は、日本一の大歓声のなかで行われる。「(声が届くのは)ペナルティエリアの中くらい、でしょう」というのが、山岸の実感だ。

 「でも、コーチングは相手に伝えるだけじゃないんですよ。今、どういう状況にあるのか、自分の確認にもなるんです」

 26節終了時、断然のJ1最少となる失点19で、首位を走る浦和。埼スタで試合を見ていても分からない、その秘密をひとつ見つけたような気がした。

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