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好調・川崎Fを支える、
中村憲剛の“無理”。 

text by

浅田真樹

浅田真樹Masaki Asada

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photograph byAFLO

posted2006/05/08 00:00

好調・川崎Fを支える、中村憲剛の“無理”。<Number Web> photograph by AFLO

 Jリーグの試合を見ていると、もどかしさでイライラさせられることが少なくない。確かに、パスは何本もつながる。だが、それらは横方向や後ろ方向のものばかりで、どうやってボールを前に運び、点を取る気なのか、その意図が感じられないのである。

 攻撃を組み立てようとするとき、非常に重要なのが、ボランチに前方向の意識があるかどうか。そのためには当然、ときに“無理”もしなければならない。ボランチがボールの流れを横方向から前方向へ変え、しかもスピードアップできるチームの攻撃は、見ていて実に心地いい。

 J1で今、川崎が元気だ。8節終了時点で浦和、G大阪に次ぐ3位。特筆すべきは、その得点力の高さで、総得点25、得失点差プラス15は、東西の横綱を上回り、いずれもリーグトップである。

 確かに、ジュニーニョをはじめ、ブラジル人トリオによるところは大きい。だが、それ以上に、川崎の攻撃を目に心地いいものにしているのは、ボランチの中村憲剛が“無理”をしているからである。

 中村は以前から、パスで前方向に加速できる選手ではあった。だが、今季の中村はそれだけではない。「しっかり守ってくるチームに対しては、誰かがどこかで穴を開けないと。きれいにやるだけじゃ崩せない」。そんな意識が、中村に新たな手段、ドリブルを使わせている。

 第7節の広島戦では、長いドリブルで相手陣内深くまで突き進み、先制点をアシスト。第8節の大宮戦では、相手の守備網がコンパクトながら「ボールへのプレスは緩い」と見るや、「敵をひとりはがせば、スペースが生まれてチャンスになる」と、果敢にドリブルで前へ出た。

 低い位置でのドリブルは、奪われたときのリスクをともなう。前方向へのパスもまた然り。だからといって、ボランチが安全な横パスだけを回していれば、相手を楽にするばかりか、試合を退屈なものにしてしまう。どこで前方向にスピードアップするか。そのために、いかに“無理”ができるか。文字にすれば、当たり前のことでも、Jリーグには、それができるボランチが意外なほど少ない。

 中村のプレーは特別なものではない。ゴールへの当然の道筋だ。それでも、もどかしい試合に慣らされた両目には、娯楽性を帯びて見える。それが心地いい。

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