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長年の閉塞状況を脱し、新時代の扉が開かれた。 

text by

服部祐兒

服部祐兒Yuji Hattori

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posted2006/02/23 00:00

 想定外の初場所だった。昨年完全制覇を果たし、1年間(90取組)で僅か6度しか負けなかった横綱朝青龍。絶対本命が、終盤まさかの大失速。約1年半ぶりの連敗も喫し、遂に連続優勝記録は7で途絶えた。

 場所中の白鵬戦で痛めた右腕の影響、稽古不足の状態でも優勝できるだろうという慢心、年間グランドスラムという偉業を達成してしまった後の虚脱感……。失速の原因はいくつか想像されるが、横綱は相撲の奥深さをひょっとして初めて味わったのではないだろうか。春場所に向け「鬼になる」と宣言した朝青龍。その言葉通り、かつての荒稽古が復活するか、屈辱にまみれた獅子の意地が見ものである。

 この虚をつき賜杯を抱いたのは、大関栃東だった。終盤残り3日間の時点で、優勝争いは星1つの差に、6人がひしめく大混戦。この熱気を待っていたかのように、相撲ファンが大挙して国技館に詰め掛けた。満員御礼の垂れ幕が踊り、これぞ大相撲という賑わい。にわか解説者が館内のあちこちで勝者を予想し、贔屓力士を後押しせんと大声援。長らく忘れかけていた熱気が、力士たちのプロ魂に火をつけた。6人のサバイバル戦は、全て見所一杯。安易な作戦に走らぬ正攻法の激突はスリリングを極め、ファンは一喜一憂、相撲の醍醐味を堪能した。相撲というパフォーマンスを介し、力士とファンが一体化した初場所。その頂点はやはり、千秋楽結びの取組だった。

 6度目のかど番を難なく中日で脱し、強靭な下半身に支えられた左右のおっつけを武器に、単独トップでこの日を迎えた大関栃東。対するは、栃東を星1つの差で追うモンゴルの後輩白鵬のため、援護射撃を担った手負いの獅子朝青龍。勝負は一瞬だった。呼吸が合わず仕切り直しの2度目の立合い。集中力に勝った栃東は、胸から当たり、鋭く踏み込み瞬時に左差し、右上手を奪った。間髪入れず、タイミング抜群の上手出し投げに、横綱はなす術なく土俵に這った。2度目の優勝以来2度の大関陥落という地獄をみた栃東の、13場所ぶり3度目の優勝が決まった瞬間だった。

 何かが変わりだした感のある初場所。この流れを是非とも春場所につなぎ、魅力溢れる相撲を披露してもらいたい。

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