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少年スポーツを蝕む勝利至上主義を問う。 

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photograph byTamon Matsuzono

posted2004/07/15 00:00

少年スポーツを蝕む勝利至上主義を問う。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 実は、きれいごとですまない世界である。本書を一読すると、「清く正しい少年スポーツ」というイメージがいかに貧困か、ということを思い知らされる。

 著者は大学在学時より、少年サッカーの指導に携わってきた。

「指導を始めて25年になりますが、毎年直面させられるのは、親御さんの間で根強いスポーツへの誤解と歪んだ期待なんです」

 子供にスポーツをやらせれば、健全な肉体と精神を発達させるのに役立つ――その考え自体はあながち間違いとはいえない。だがそのためにどういうスポーツ環境を与えるか、が重要であり、そこを間違うとスポーツをやらせることが子供にとってマイナスにしかならないケースもある、と著者は語る。

 少年スポーツで強豪と呼ばれるチームの中には、「勝利至上主義」のもと、運動能力の高い子供を集めて、高度な戦術を徹底的に教えこんでいるところも少なくない。そういうチームにあっては、運動神経の発達していない子は肩身が狭い思いをするばかりか、場合によってはスポーツをする場さえ与えられない。

 才能のある子、才能のない子、足の速い子、速くない子……厳然と存在する差異をもって、少年スポーツを大人の社会の縮図とみる見方も中にはある。

「つまり、実力的に劣って試合に出れない子供についても『耐えるのも勉強』というわけです。それはそれでひとつの哲学かもしれませんが、果たして少年スポーツに安易にとりいれていいものか。子供たちは楽しむためにスポーツを始めたはずで、耐えるためじゃない。少年スポーツが人生の『縮図』である必要はないし、本来そういうことはプロの世界で存分にやるべきことだと思いますね」

 少年スポーツを、大人のやっているスポーツの子供版とみるか、それともそこに大人とは違う全く別の世界をみるのか。そこで指導者の哲学が問われる。

「先日、僕が指導している小学3、4年生のチームが、いわゆる強豪チームと対戦して前半だけで0―4。そのうち3点が、セットプレーから、ヘディングでドンピシャで合わされたゴールでした。9歳10歳の子がね」

 初めて目の前でみる高度なゴールに、びっくりする選手たちだったが、著者はハーフタイムに「ヒント」だけを与え、彼らは「うん、やってみる」と目を輝かせてグラウンドに飛び出していった。結果は0―8で敗れたが、前半は策もなくやられていたCKを2本防ぐことができたという。

「『すごいじゃん、みんな!』って試合が終わってからは褒めまくりました。事実、この試合で、彼らはひとつうまくなったわけですから。もちろん負けるのは悔しいに決まっているけど、それでも満足そうな表情でした」

 スポーツをやっている以上、誰だって負けたくない。ましてや子供なら、その思いは強いものだ。だが、そこで周りにいる大人たちが、勝利というわかりやすい指標のみを求め、子供たち一人一人の微細な成長に気づいて褒めることができなければ、少年スポーツの意義の大半は見失われてしまう。

「少年スポーツのコーチは、本人の意識はどうあれ、その子のスポーツ人生を決定づけてしまうだけの影響力をもっているわけです」

 何のためにスポーツをするのか。少年スポーツをめぐる最新の状況を、最前線で現場に関わってきた著者ならではの視点と、ユニークなデータで丁寧かつ明確に描ききった。ありそうでなかった名著である。

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