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クルマが良いから勝てるわけでもない。 

text by

大串信

大串信Makoto Ogushi

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posted2006/05/08 00:00

 自動車レースにおける精神力の影響を、4月16日に鈴鹿サーキットで開催された全日本F3選手権シリーズ第4戦で目撃した。F3はプロの入口だが、才能はあっても経験が少なく精神力に課題を残す若い選手が多く出走する。近年、様々な分野のアスリートがメンタルコントロールの重要性を口にするが、モーターレーシングでも同じことだ。

 レースに勝ったのは伊沢拓也。今年F3にデビューしたばかりの新人だが、圧倒的な強さと速さを示してライバルをねじ伏せる完勝であった。しかし、本来ならば伊沢はこうしたレースを1年前に見せているべき男であり、それを期待されていた男であった。

 伊沢は欧州修行を経て一昨年、F3の前段階であるフォーミュラドリーム(FD)にフル参戦した。大方の予想ではシリーズを制し昨年のうちにF3へ出場すると見られていた。ところが、伊沢はハマってしまうのだ。

 絶対に勝つという気持ちばかりが前へでて空回りしミスを繰り返し勝てるレースを落とした。その結果さらに焦りが加わって空回りは激しくなった。シリーズを通しての結果は惨敗。思いがけない結果だった。幸いにして伊沢は昨年も引き続きFD参戦の機会を得たが、やはり空回りは止まらず、それどころかますます深みにはまっていった。

 本来ならば伊沢の将来はここで閉ざされてもおかしくはない状況だった。しかし、結果以外の面で見せる伊沢の走りのキレに対する評価は高く、今年は異例の抜擢を受けてF3選手権に進出を果たした。だが昨年のような精神状態のままでは格上のF3で結果を残せるわけもない。

 ところがデビュー4戦目で優勝、しかも安定し強く速く、まるで別人が乗っているかのようなレース運びだった。伊沢に何が起きたのか。伊沢が所属したHONDA戸田レーシングの戸田幸男監督に聞くと「FDを見ていたら、この子はプレッシャーを与えると結果が出せないと思ったので、とにかくリラックスしてレースさせることを心がけた。それがうまくいった。もちろん、逆のケースもあって、プレッシャーを与えなければ駄目な子もいる。そこが難しい」。

 レースはクルマが良ければ勝てるというものではないという現実を再確認した。

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