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新人王は二の次。佐藤充が目指すもの。 

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永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

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posted2006/09/14 00:00

 「相手は飛び道具を持っている。でも、タイミングを少し外すことで飛び道具もただの棒切れに変わるんですよ」

 中日の森繁和バッテリーチーフコーチは、バットを飛び道具に例えてこう言う。その言葉を今年最も体現しているのは、中日独走の主役となった佐藤充である。

 190cmの長身を折りたたんでの変則フォームは腕の出所が掴みにくく、打者の始動は少しずつズレてしまう。そのため150km台のストレートにさし込まれ、フォーク、スライダーなどの落ちる球にはついていけない。佐藤が勝ち星を重ねてきた理由がここにある。本人もこの成績には素直に喜びを表す。「防御率がトップだった時は、毎日こっそり新聞を買いに行くのが楽しみでした」

 今季初勝利は5月18日。以降、8月4日のヤクルト戦で黒星を喫するまで8連勝。その間にあげた5連続完投勝利は、45年ぶりに権藤博の球団記録に並んだ。森コーチが「心のスタミナを付けさせるため完投を要求した」と説明する落合流の起用法が産んだ副産物である。追いつかれた権藤も、「分業時代の中にあって投手の基本は先発完投ということを証明してくれたことに意味がある」と賛辞を送る。

 佐藤は入団2年目の開幕直前に、右ヒジ遊離軟骨除去の手術をしている。前年にチームはリーグ優勝していたし、自分の体にメスを入れるべきかどうか悩みに悩んだ。佐藤が相談したのは、兄貴分と慕う川上憲伸だった。川上の「悩んでいるなら手術したほうがいい」という答えに、佐藤は「悔いを残すな」という意味を感じ取り決断したという。それが結果的によかった。今では「投手成績で川上さんよりも上に名前があった時期は、相談に乗ってもらった先輩に対してちょっと失礼かなと思いました」と笑う。

 現在の中日は、エース川上を中心に朝倉健太、山本昌、マルティネス、中田賢一、そして佐藤の6人で先発ローテーションを回している。しかし、日本シリーズになれば先発は4人ほどに絞られる。

 2年前、手術するかどうか悩んでいたころ、中日対西武のシリーズをテレビで見ていたという佐藤にとって、「なんとしても先発したい」という気持ちは人一倍強い。今は新人王のタイトルよりも、目指すものがある。

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