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合言葉はストップ・ベッテル!!
ハミルトンのミラクル勝利の裏側。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byMasahiro Owari

posted2011/04/20 10:30

合言葉はストップ・ベッテル!!ハミルトンのミラクル勝利の裏側。<Number Web> photograph by Masahiro Owari

グリッド上で、パドック内と同じような作業を猛烈な速さでこなすクルーたち。このままスタートできないのではないか……とも思われた、絶体絶命のピンチだった

2ストップ作戦のベッテルのタイヤは限界のはず……。

 迎えた2回目のピットストップ。先行するベッテルのペースを見て、2ストップと読んだ今井は25周目にハミルトンをピットインさせるようプルウにアドバイス。ここでハミルトンに温存していた新品のソフトを装着させる。

 それから6周後、トップのベッテルがピットインし、この日初めてとなるハードタイヤに履き替えてピットアウト。残り25周を走りきる2ストップ作戦だった。今井はそれを見て、「持つはずがない。いや、持たないでくれ」と祈った。と同時に、ハミルトンの3回目のピットインのタイミングを図っていた。ベッテルのピットアウト直後にハミルトンのペースが少し落ちた31周目。プルウは今井に「もう入れるか?」と相談。しかし、今井は「もう少し待とう」とガレージのコンピュータルームから、ピットウォールにいるプルウにインターコムで返信した。

ハミルトン3回目のピットストップは38周目。残り18周で大逆転!

 38周目。

 「いまだ!!」と今井が動いた。

 残り18周のベッテルとの直接対決。どちらもハードタイヤ。違っていたのはベッテルがすでに7周を走行していたのに対して、ハミルトンは新品。その差は10周目以降に出てきた。49周目からベッテルのペースが急激に落ち始める。今井の狙い通りだった。残り4周となった52周目。すでに21周を走行したタイヤを履くベッテルにハミルトンの勢いを止める力は残っていなかった。

 F1史に残る逆転勝利劇。それを演出したのは、グリッドに着けないかもしれないという絶望の淵からハミルトンを救出したメカニックたちと、レースを見据えた戦略を予選から実行させた今井をはじめとしたエンジニアたち、そして、いかなる状況に陥っても動じなかったハミルトンの冷静さだった。

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