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"過剰"で何か欠けている愛すべき男たちの物語。 

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Number編集部

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photograph byTamon Matsuzono

posted2004/07/29 05:49

 紅茶の入ったティーカップをフォークボールの挟み方で持ち上げた村田兆治は、著者に向かって言った。「力を入れて取ってみろ」。言われた通りにするが、ティーカップはピクリともしない。

「村田さんの著書を編集していたときでした。他のマスコミ人にも必ずやってみせるそうなんですが、『僕は口下手だから言葉では伝えられない』と言って、そういうことをやるんですよ。そこに何とも言えない哀愁があるんです」

 無口で不器用。しかし不思議と人間を惹きつける魅力を持つ男。村田には今の日本人の多くが失ってしまった空気が満ちている。

 本書は、技術はもとより個性も一流だった懐かしい「サムライ」たちの物語だ。

 彼らにまず共通しているのは、コンプレックスや体のハンディなど、何らかの欠落を抱えていること。南海にテスト生として入団し、長嶋茂雄への対抗心を燃やし続けた野村克也。指が短くカーブが投げられなかった江夏豊。巨人に憧れ、夢かなわず「可愛さ余って憎さ百倍」とばかりに打倒巨人を目指した星野仙一と田淵幸一……。

「村田さんもやっぱりそう。元々はセ・リーグに行きたかった人ですから屈折があるし、成功した後にも右ヒジの故障に悩まされている。そして、その乗り越え方がまたすごい。ほどほどにできないというか」

 渡米してスポーツ医学の権威、フランク・ジョーブ博士の手術を受けた村田は、博士の「あせらないこと、やりすぎないこと」という指示を守ることができない。「100球が限界」という忠告を無視して、155球を投げて完投勝利し、復活してしまう。

「こういう“過剰さ”もサムライたちには共通してあるように思いますね」

 中でも強烈な印象を与えるのは、落合博満である。高校時代、7回も野球部に入・退部を繰り返し、せっかく入った大学も中退してプロボウラーになるつもりで帰郷したというエピソードや、「ストライクはベースの上を通っていくんだから、それを打ちゃいい」「ヒットだけ打ってればいいんだったら、いつでも4割は打てる」「チームワークなんて必要ない」といった発言など、著者の言う「史上最強の天邪鬼」という形容がまさにふさわしい。

 ただ、そんな落合もまた、ドラフトで巨人に指名されなかったというコンプレックスを抱えている男だった。

「後にはセ・リーグに行って巨人にも在籍しますが、落合の個性はパ・リーグによってつくられたもの。野村もそうですが、権威に対してとことんノーと言う、ひねくれた姿勢はパ・リーグならではだと思います」

 そのパ・リーグが、いま激震にさらされている。偶然だが、登場する19人のサムライたちの最後を飾るのが、渦中の大阪近鉄バファローズ監督・梨田昌孝である。

「本文中にも書きましたが、去年の日向キャンプで梨田さんが練習の仕上げにやらせたティーバッティングは圧巻でした。20人近い選手が一列に並んで、号令に合わせて一斉にスタンドに打ち込んでいく。やっぱり過剰なんです。そこには近鉄という球団の個性があるんですね。これがなくなってしまうのだとしたら、やはり残念でなりません」

 個性のある球団、リーグがあってこそ、個性のある選手も生まれるはずだ。魅力あるプロ野球とはどんなものなのかを、本書に描かれた型破りなサムライたちは教えてくれる。

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