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スリルと興奮に酔う!日本にはキックがある。 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph bySusumu Nagao

posted2006/07/04 00:00

スリルと興奮に酔う!日本にはキックがある。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 「最近格闘技界は暗い事件が多い。ここ数日間はこの試合だけを楽しみに生きてきましたよ」

 6月11日、東京・後楽園ホール。場内で旧知の格闘技ライターが真顔でそう話しかけてきた。試合開始のゴングを待ちわびているのはファンだけではない。書き手だって“生きる糧”にしているカードはある。もう格闘技を見続けて20年近くなる私の胸だって、まるで翌日に遠足を控えた子供のように高鳴っていた。書き手の期待を一身に集めていたのはキックボクシングのフェザー級5回戦、山本元気(DEION)とワンロップ・ウィラサクレック(タイ)の一騎討ちだ。

 巷で格闘技というとK―1かPRIDEに限定されがちだが、それ以外の興行や大会にも好勝負は埋もれている。そもそも純粋な勝負性に舞台の大小は関係ない。山本とワンロップも一般大衆の目につく舞台に出る機会がなかなかないだけで、それぞれどんな一見さんをも唸らせるだけの必殺技を持ち合わせている。

 “右の殺し屋”というニックネームを持つ山本のそれは右ストレート。その破壊力はKOの山を築き上げた過去の試合で証明済みだ。最近は右をより一層活かすため、攻撃をボディや太腿に散らすスキルも習得。今年3月にはムエタイの現役ランカーを右ストレートを打つ前段階のボディフックで悶絶させている。対するワンロップの十八番はヒジ打ち。これまでに7人もの日本のトップどころの顔面を切り裂いて、“日本人キラー”と呼ばれるようになった。3カ月前には山本のライバルである山本真弘(藤原)に初めてKO負けの屈辱を味わわせている。

 勝負の山は3回に訪れた。両者とも間合いを詰め、勝負を仕掛ける。最初にヒットしたのは山本の右フック。これを食らったワンロップは脳しんとうを起こしたかのように一瞬ストンと腰を落とした。しかし現役バリバリのムエタイ戦士の回復力は想像以上に早い。すぐにヒジ打ちで元気の右のこめかみをカット。大流血に追い込んだ。結局試合は痛み分けに終わったが、殺るか殺られるかと呼ぶに相応しい攻防の連続に、多くの観客は満足した面持ちで会場をあとにした。このスリルと興奮をキックファンや一部のマスコミだけのものにしておくのはもったいない。キックはK―1の二軍ではない。

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