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ドロー決着の“ラリー・クラシコ”初戦。
自信を得たモウリーニョの秘策とは?
 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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posted2011/04/18 12:15

ドロー決着の“ラリー・クラシコ”初戦。自信を得たモウリーニョの秘策とは?<Number Web> photograph by Getty Images

試合中、ブスケッツの手をとって何かを話しかけるモウリーニョ。試合後、アルビオルのファウルによるレッドカード&退場という審判の判定に対して大いに不満を述べることになる

危機的状況でモウリーニョが繰り出した“プランB”。

 過去のクラシコと同様に、先制後のバルサは巧みにショートパスをつなぎつつ、数的不利な状況でボールを奪いに行かざるを得なくなったマドリーのプレスをいなしはじめる。あとは前がかりになった相手DFラインの裏を突いて追加点を決め、試合を殺せば万事OK。試合はバルセロニスタにとっては至福の、マドリディスタにとっては悪夢の時間帯に突入した、かに思えた。

 しかし、今回のマドリーは違った。

 正確には、モウリーニョは他の監督とは違った。

 チェルシー、インテルを率いて何度もバルサと対戦し、何度も退場者を出した状況を経験してきた彼には、リードされ、10人になった時のための“プランB”があったのだ。

 アルビオルの退場に伴いペペをセンターバックに下げ、4-4-1の布陣にチームを修正したモウリーニョは、直後にベンゼマを下げてエジルを右MFに投入し、C・ロナウドを1トップに移す。その後もバルサのボール支配が続くのを見ると、66分にはディマリア、シャビ・アロンソという攻撃の核を下げてアデバヨール、アルベロアを同時投入。これが流れを引き寄せるきっかけとなった。

 アデバヨールを前線に投入し、C・ロナウドは本人が最も好む左MFへ移動。アルベロアを右サイドバック、セルヒオ・ラモスを左センターバックに移し、ペペを再びボランチに戻す。4-4-1の並びはそのままに、選手の位置を入れ替えたこの交代には2つの意図があった。

 1つは、勝ち目のない中盤を捨ててアデバヨールめがけたロングボールを多用し、相手のDFラインを後退させること。

 もう1つは、フィジカル面で相手に優るケディラ、ペペ、エジル、C・ロナウドのMF4人が、ロングボールを放った後のこぼれ球を力ずくで奪い、素早くフィニッシュに持ち込むことである。

C・ロナウドのPKで同点になった後、カオスと化したピッチ。

 81分、中盤右サイドのスローインからケディラとエジルが強引にボールを持ち運び、エジルが内側のアデバヨールにパス。アデバヨールがコントロールし損ねてボールはシャビの元へ渡るが、これを素早く後ろから詰めよったエジルが奪い返し、C・ロナウド、マルセロとつないだところでアウベスがタックル。このプレーで得たPKをC・ロナウドが決め、バルサ戦無得点のジンクスを破ると共にマドリーを死の淵から蘇らせた。

 そこから試合終了までの数分間は、メッシが珍しく苛立ってスタンドにボールを蹴り込むなど選手が熱くなり、両チーム共にバランスを失うカオス状態が続く。だが両GKの冷静な対応とフィニッシュの不精確さもあり、お互い追加点を決めることはできなかった。

 10人の相手に追いつかれて勝ち点2を失った感が強いバルサだが、この引き分けでライバルとの勝ち点8差をキープしたことで、リーガ3連覇に大きく近づいたことは確かだ。幸い負傷交代したプジョルとアドリアーノは共に軽傷で、次のクラシコとなる4月21日木曜日(早朝/日本時間)のコパ決勝にも出場できる可能性があるということだった。

【次ページ】 試合後、落着きはらうペップと苛立つモウリーニョ。

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