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後味の悪い試合から、いま何を学ぶべきか。 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph byEssei Hara

posted2007/02/08 00:00

後味の悪い試合から、いま何を学ぶべきか。<Number Web> photograph by Essei Hara

 個人的に'06年の格闘技界最大のニュースは「フジテレビのPRIDE放送休止」になるはずだった。少なくとも、年が明けて秋山成勲vs.桜庭和志の真実が明らかになるまでは。

 1月11日、秋山が試合前に無自覚のままスキンクリームを全身に塗ったことを認めると、ネットを中心に“魔女狩り”が始まった。主催社であるFEGが秋山に「ファイトマネーの全額没収」や「失格」という処分を下しても、その勢いがとどまることはなかった。本人だけではなく、FEGや関係者まで猛バッシング。秋山側と見なされた者はネット上で否応なしに攻撃目標となった。6日後、FEGは秋山に対してさらに「無期限出場停止処分」というペナルティを科した。

 総合格闘技における最低限のマナーを守れなかった秋山や、クリーム塗布の事実を見抜けなかった審判団に非があることは間違いない。だが、それを差し引いても世間の秋山総攻撃は常軌を逸していた。国籍問題まで持ち出すネット上の書き込みを見ると、胸が痛んだ。その一方で桜庭の「滑る」という猛抗議を後押ししたのが、ネット上の不特定多数の書き込みであったことも見逃せない。ネット社会の功罪を痛感するしかなかった。

 問題はそれだけではない。今回の騒動は日本の格闘技界が抱える矛盾も露呈させてしまった。ある選手は言った。

 「塗ったことで秋山が罰せられるのは当然。ただ、その一方で筋肉増強剤や興奮剤を使用している疑いの強い選手におとがめがないのはいかがなものか。外側は反則だけど内側はOKだったら、真面目にやっている選手はやっていられない」

 主催社側が選手や審判団に処分を下すというシステムにも疑問が残る。もし野球やサッカーで似たような騒動があったら、間違いなく主催社も罰せられていただろう。新たな事実が発覚したわけでもないのに、秋山に2度処分が下されたのも不自然だ。いまや、日本の格闘技は大晦日の紅白歌合戦に対抗しうるキラーコンテンツに成長した。しかし視聴率を意識しすぎたあまり、競技としての根っこの部分が疎かになっている感は否めない。

 気軽にタレントの格闘家転向を許す土壌は日本にしかない。ヌルヌルではなく、もっとスカッとした格闘技を。日本格闘技界の新年はまだ明けていない。

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