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タレントは必要ない。箱根駅伝の伝統の重み。 

text by

渡辺勘郎

渡辺勘郎Kanrou Watanabe

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photograph byKYODO

posted2006/01/12 00:00

タレントは必要ない。箱根駅伝の伝統の重み。<Number Web> photograph by KYODO

1920年に始まり中断もあったが82回を迎える箱根駅伝。テレビ東京が放送していた時期も

 いまや正月番組として定着した『箱根駅伝』。だが、日本テレビによる生放送開始は'87年、全区間完全生放送となると'89年からと、その歴史は意外に浅い。レース最大の難所、山上りと山下りの五区と六区の模様を中継するのは、放送技術的に非常に難しい作業だからだ。

 二日間に投入される機材は、カメラ84台、ヘリコプター3機、移動中継車3台、ロケ中継車13台、クレーン9台。中継ポイントは50カ所で、アナウンサー20名を含め動員されるスタッフは約850名。機材や人は系列各社からも集められる。

 箱根駅伝で論議を呼ぶのが、有力選手の失速や棄権といったアクシデントだ。視聴者の涙を誘い、高視聴率をたたき出しもするが、局には「晒し者にするのか」という抗議電話も掛かってくるという。

 「複雑ですが、これはレースです。僕らは、そこで何が起こっているのか、伝えたい。強い選手ほど無理するから、あの選手が……という場合が多いですが、そこにタスキの重みや箱根の凄さが出る。だからこそブレーキを起こした選手にはその後、いい成績を、と切に願います」

 こう語る今村司チーフプロデューサーによれば、メディア側にもタスキをリレーする感覚があるという。機材を忘れた、エントリー変更が伝わっていない、などの一つのミスを取り返すために舞台裏はすさまじいことになるらしい。

 最近のスポーツ中継で話題になる過剰演出について、『ザ!鉄腕!DASH!!』などバラエティも手掛けたことのある今村氏は「箱根にタレントを呼ぶなんて、選手に申し訳なくてできません」という。

 「戦時下、もう走れないと思って走ったとか、かつてのランナーたちは箱根の話をするとき、皆さん泣くんです。ブレーキを起こしてタスキを途絶えさせてしまった方なんか取材になりませんでした。凄い思いをして走っている……そういう伝統、魂を感じますからね」

 82回を数える歴史、東京・湘南・箱根という土地、二日間で百万人以上の沿道の人出……主役は選手だが、これら全ての要素がシンフォニーをなす文化として受け継がれていけば、と今村氏は言う。

 「だから、あまり手を付けないのがメディアの務め。バラエティではないので、視聴率ではなく内容を論じて欲しいと思っています」

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