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復活したソーサに見えたヒーローの姿。 

text by

津川晋一

津川晋一Shinichi Tsugawa

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photograph byYukihito Taguchi

posted2007/05/03 00:00

復活したソーサに見えたヒーローの姿。<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi

 幼い頃から憧れ続けたヒーローに会う。それはどんなに嬉しいことか。

 ワシントン州シアトルに住むイライ・ショルツ君(15)は4月中旬のある日、夢のような出来事を実現させた。マリナーズの本拠地なのに、誇らしげにレンジャーズのユニフォームに身を包む。お目当てはサミー・ソーサ外野手だ。物心ついた頃、ソーサはマグワイアと熾烈なホームランダービーを競演していた。「打ったときのカッコよさがナンバーワンなんだ」と目を輝かせる。「イライの部屋はまるでソーサの野球博物館みたいなのよ」と一緒に来ていた母親は笑った。

 2人が『We Love You Sammy!』という手作りの看板を持ち、三塁側で待ち構えていると、練習を終えたソーサがやってきた。イライ君が勇を鼓してお願いする。帽子のつばと宝物のルーキーカードにサインをもらうことができた。

 近年、ソーサは受難の時期が続いた。ステロイド使用の疑惑が絶えず、『コルクバット事件』で出場停止になってからは、人気も成績も下降線の一途をたどった。'06年シーズンが始まっても所属チームが決まらず、歴代5位、通算600号を目前に事実上の引退状態となっていた。

 1年の浪人生活を経て、ソーサが戻ってきたのは今年2月。レンジャーズの招待選手の身分となり、生き残りをかけてスプリングトレーニングを戦い抜いた。

 「必ずビッグリーグに戻ってみせる。キープ・ファイティングさ」

 そして再びメジャーの舞台に立った。

 イライ君が球場を訪れた日、ソーサが590号をスタンドへ架けた。打った瞬間、ポーンと飛び跳ねる仕草は健在だ。ホームへ戻ると右手人さし指を天にかざす。ベンチでテレビカメラに向かって、胸に手をあてた後にピースサインを送る。あの一連の動作も帰ってきた。

 最安値の左翼スタンドに陣取ったイライ君が大喜びで母親とハイタッチする。薬を止めて体が小さくなったとか、パワーがなくなったとか。ソーサにまつわる醜聞が入り込む余地は、そこにはない。

 今年11月に39歳になろうかという元スーパースターがそこにいて、今もなお、その勇姿に魅了されたファンが数多く球場に足を運んでくる。そして少なくとも、一人の少年の心をつかんでやまない。

 ヒーローとは、それで十分なのだ。

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