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限界の走りを見せたトレルイエの好プレー。 

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大串信

大串信Makoto Ogushi

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posted2008/05/29 00:00

 仕事を終えてコースからプレスルームに帰ってきたカメラマンが、「1コーナーのスタンドのお客さんたちがレース中の排気音よりも大きな拍手を送っていた。こんなレースは珍しい」と言った。聞けば、ファンは目の前の実況画面を通しシケインで猛烈な追い抜きを再三にわたって見せたブノワ・トレルイエが座席の前へ来るのを待ち、通り過ぎる彼に向けて賞賛の拍手をしていたらしい。

 それほど、鈴鹿サーキットで開催された全日本選手権フォーミュラ・ニッポン第2戦で彼が見せた走りはすさまじかった。彼はレース前半、2位を走っていた。しかしレース途中で起きたアクシデントのためセーフティカーが出た際、チームの対応が間に合わず1周余分に徐行を強いられたため、彼は13番手まで順位を大きく落としてしまったのだ。そしてそこから彼の追い上げは始まった。

 近年のレーシングカーに乗るドライバーは、スッポリとクルマの中に収まってしまうため、走行中にその気配を観客が感じ取るのは非常に難しい。だが今回のレースで彼は、ギリギリまでブレーキを遅れさせ、タイヤがグリップを失う寸前で姿勢を変え、暴れる車体を押さえ込んで前を行くライバルを抜き去るという激しい走りを展開した。明らかに彼はその個性を外に向けて発散した。

 F3時代の彼を評して「あいつの足には人間トラクションコントロールがついている」と言った人がいる。タイヤが空転する限界を感じ取って微妙なアクセル操作をするということだが、今回彼には、人間アンチブレーキロックシステム、いわゆるABSもついていると思った。

 言い換えれば、今回彼が見せたのは、限界線上を綱渡りするに等しい走り方で、速いことは速いがリスクは高かった。通常、選手はその手前でマシンを操るものだ。しかし追い詰められたトレルイエは敢えてリスクの高い領域に踏み込み、綱から落ちずに突っ走った。

 レースに興味のない人が観ても、彼のすさまじい走り方には驚き興奮したはずだ。結局彼は7位に終わったが、練習走行から圧倒的な強さを示し開幕戦から2連勝、念願の鈴鹿初優勝を遂げた同僚の松田次生の影が薄くなるほどの好プレーであったと、わたしも拍手を送りたい。

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ブノワ・トレルイエ
全日本選手権フォーミュラ・ニッポン

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