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女子バレーに向けられた尽きない好奇心。 

text by

稲川正和

稲川正和Masakazu Inagawa

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2004/05/06 00:00

女子バレーに向けられた尽きない好奇心。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 頭の中に?マークが浮かぶ。とたんに、この人は走り出す、らしい。「なんで、なんで。どうしてそうなるの?」。表現は悪いが、まるで馬車馬のように、追求せずにはいられなくなってしまうのだ。

 今回は女子バレーが対象になった。もともとバレー好きで、「高校時代、嶋岡健治(ミュンヘン五輪金メダリスト)さんと同じ大学に進学したら知り合いになれるかも」なんて思ったほど。よくよく考えてみたら入れ替わりと分かり、乙女の願いは儚く潰えるが、ともあれバレーは男も女も見つづけた。観戦だけでなく、記事も数多く書いてきた。だが、決定的な「?」には至らなかった。それが、昨年のワールドカップ期間中、突然、浮かぶ。

「選手が、ちらちら監督を見ないんです。監督ではなく、キャプテンのトモ(吉原知子)の背中をみんなが見ている。あれっ、今までの全日本女子と違うぞ、なぜ? って」

 これまで女子バレーといえば、強烈なカリスマ監督が付きものだった。故大松博文しかり、故山田重雄しかり。4年前の五輪最終予選で涙をのんだ葛和伸元監督(現NECレッドロケッツ監督)もまた、「ニッポンの怒る人」だった。いつの時代も、選手は猛練習で鍛えられ、根性を注入され、拾って拾いまくる守りのバレーを展開した。コートサイドには、おっかなそうな顔の監督が仁王立ちという構図……。

「それなのに、今回は選手たちが自分たちの意志で戦い始めたんです。セッターの竹下(佳江)も、10代の大山(加奈)や栗原(恵)に何度ミスをしてもトスを上げるし。一番確実な選手に打たせるのがセオリーのはずなのに、ミスを怖れず、攻めつづけたんです」

 変わった、と思った。この40年間、女子バレー界を覆ってきたイメージを、招集されて僅か半年あまりの柳本ジャパンが変えられたのはなぜか。どうして女たちは突然変異し始めたのか。そう思ったら、止まらなかった。

「女子バレーのターニングポイントとして、書き残したかったんです。あとで振り返ったとき、いつ変わったのか分からなくなるから」

 変貌の中心軸にキャプテン吉原がいたのは、間違いなかった。ベテランという理由で7年間も全日本に選ばれなかった吉原は、徹底したプロフェッショナリズムをチームに持ちこんだ。曰く「練習のための練習はしないで」「コートを出たら人の悪口を言うのはやめよう。文句があったら、コートの中で」などなど。それは、吉原自身が日立を解雇され、セリエAで1シーズン世界のトップクラスで戦い、帰国後、セリンジャー監督のもとで学んだ「個」の強さだった。他の11人の選手も全員、吉原のキャプテンシーの大きさを認めている。

 だが、彼女の力だけでできたわけでもないことを、吉井さんは最後に知る。詳しくは本書に委ねるとして、著者と吉原とのこんな会話がヒントになるだろうか。

〈「すべては、柳本さんのシナリオどおりだったりしてね」

「そんなこと、あるわけないじゃないですか。神様じゃないんだから」〉

 ともあれ、変わり始めた彼女たちの次なる舞台は五輪最終予選。きっとそこでも、吉井さんは新たな「?」に襲われるに違いない。

――次から次へと、よく好奇心が湧きますね。

「だって、面白いじゃない、人間って。なんで、こんなことができるんだろうって。彼(彼女)らができて、私ができないのはなぜ? 分からないのが、許せないのよ」

 馬車馬は改めます。その尽きない好奇心、まるで、子供のような人である。

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