SCORE CARDBACK NUMBER

試練を越えて手にした、親子対決という贈り物。 

text by

宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

PROFILE

posted2008/02/14 00:00

 その瞬間、ジョージ・カール(デンバー・ナゲッツ・ヘッドコーチ)は顔色ひとつ変えず、平静を装っていた。息子がNBAのユニフォームを着てコートに出てくるのを間近で見たのだから、心の中では笑顔でガッツポーズをしていたに違いない。しかし対戦チームのヘッドコーチという自分の立場を考えてか、多くの視線を意識したのか、感情を自分の内に押し込め、ポーカーフェイスを作っていた。

 ジョージの息子、コービー・カールは、この日、1月21日の対戦相手、ロサンゼルス・レイカーズのルーキーだ。NBAドラフトではどこからも指名されなかったが、キャンプでの熾烈な競争に勝ち抜き、レイカーズのロスター枠を獲得した。まだ出場機会は少ないのだが、この試合では勝負が決した試合終盤に出番が与えられた。NBAの場での親子対戦が現実となった記念すべき瞬間だ。親子がコーチと選手として対戦するのはNBA史上わずか3組目のことだった。

 もっとも、二人にとってはNBAの歴史よりも、彼ら自身がたどってきた道のほうが重要だった。何しろコービーは大学在学中に計2回甲状腺癌の除去手術を受け、ジョージも前立腺癌の手術を受けていた。この日、NBAという舞台で対戦できたことは、二人が揃って癌との戦いに勝ったという証でもあったのだ。

 「これは、バスケットボールが私に与えてくれた最高の贈り物だ」とジョージは誇らし気に言う。病気にも、NBAは無理だという周囲の否定的な声にも負けることない強さを持ち、NBA入りの夢を実現させた息子が自慢の種なのだ。

 かつて、ジョージはコーチングに熱中するあまりに家族を犠牲にしたことがあった。息子と疎遠になった時期もあった。しかし病気を乗り越える中でお互いを思いやり、家族の本当の大切さを思い知ったのだという。今では「私はコーチである前に父親だ」と断言してはばからない。

 もちろん、試合中だけは別だ。コービーがフリースローを決めても、放った3ポイントがエアボールになっても、ジョージは敵将の表情を保っていた。

 試合終了のブザーが鳴り響くと、コート半ばで父と息子は抱き合った。試合の間中隠していた父親の顔が、一瞬にして戻ってきた。

関連キーワード
ジョージ・カール
コービー・カール
ロサンゼルス・レイカーズ
NBA

ページトップ