SCORE CARDBACK NUMBER

名王者の心を濡らす、もうひとつの晴れ舞台。 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

PROFILE

photograph by

posted2007/06/28 00:00

 「ここにそれを作れば、彼らはやってくる──」

 映画『フィールド・オブ・ドリームス』の主人公はアイオワの自分の畑を潰して野球場を作ったが、ニューヨーク州の片田舎カナストータ村のボクシング・ファン、エド・ブロフィーは、村と掛け合いボクシング博物館を作った。レイ・キンセラほどあちこち駆けずり回らなくてすんだのは、この村がカーメン・バシリオ(シュガー・レイ・ロビンソンらと名勝負を演じた)、ビリー・バッカスという2人の世界王者の出身地だったからだ。

 '89年に設立された「国際ボクシング名誉の殿堂博物館」は年々規模を拡大してきた。毎年6月第2週の殿堂フェアにやってくるのは、新たに選ばれた者はじめ古今の王者たち。マービン・ハグラー、アレクシス・アルゲリョ、ルーベン・オリバレス、ケン・ノートン、バスター・ダグラスといったおなじみの顔。そして彼らに会い、グローブや写真など持参のお宝にサインをねだる無数のファン。

 18回目の殿堂フェアとなった今年はロベルト・デュラン、パーネル・ウィテカー、リカルド・ロペスと3人の元スーパー王者が新たに加わった。

 「俺をパウンド・フォー・パウンドの王者と認めてくれたのはWBAでもWBCでもない、あなた方ファンです」

 セレモニーでこんな泣けるセリフを口にしたのは、4階級で世界王座を獲得したウィテカーだった。「石の拳」と呼ばれた天才デュランは、シャツの上にパナマ国旗をケープ代わりに纏った“正装”。目を潤ませ、壊れたラジオのようなしわがれ声で感激を訴えていた。20度防衛の「小さな巨人」リカルド・ロペスは一族郎党を連れ自らの晴れ舞台に臨んだ。

 45人のゲストの中には、ファイティング原田こと原田政彦・日本プロボクシング協会会長(64歳)の姿もあった。'95年に日本人としてただ一人選ばれて以来、12年ぶりに殿堂に帰ってきた男のレアなサインを求めて、ファン、関係者が殺到し、人山を作った。

 原田さんは嫌な顔ひとつせず、恐らく日本で求められる1年分以上のサインを書きまくった。丁寧に、現役時代からのトレードマーク、「根性」の二文字を添えて。「悪い気はしない、毎年ここに来たいぐらいだよ」と顔を上気させるのだった。

ページトップ