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「キューバ危機」勃発で、北京五輪はどうなる。 

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前田衷

前田衷Makoto Maeda

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posted2007/09/20 00:00

 新たな“キューバ危機”である。アマチュアで世界一のボクシング強国として知られる同国の主力選手が次々と亡命してプロに転向するのに業を煮やしたカストロ首相が、怒りの声明を出した。亡命選手たちを「裏切り者」と呼び、「マフィア」と決め付けた欧米のプロの業者たちが金で彼らを唆し「鮫のように新鮮な肉に食らいつこうとしている」と激しく糾弾したのだ。

 病床のカストロを動かした直接のきっかけは、7月にブラジルで開催されたパンアメリカン大会で、五輪2大会連続金メダリストのギジェルモ・リゴンドー(26)が同僚の世界選手権優勝者エリスランディ・ララ(24)と亡命をはかり失敗したこと。この約半年前には、リゴンドーと同じアテネ五輪で金を獲得した5人のうち3人が亡命に成功してプロ転向している。引退したキンデラン以外の全員がプロを目指したわけだ。カストロ首相もさぞかし頭が痛いことだろう。

 今後の亡命防止策の一環として、10月中旬にシカゴで開催される世界選手権大会に代表を派遣しないという異例の措置をとった。来年の北京五輪は出場するというものの、世界レベルの大会でキューバ不在の影響ははかりしれない。

 キューバにとってボクシングは野球以上の「お家芸」である。'72年以降のオリンピックで、3大会連続金メダリストになったテオフィロ・ステベンソンの活躍も含め、7大会でのべ32個の金メダルを獲得。毎回、11階級の半分近くを独占する状態が続いている。

 確かに、キューバのチャンピオンたちはプロにとって魅力的な素材で、垂涎の的といっていい。伝統的な逞しいアメリカン・スタイルに、旧ソ連式の科学的トレーニングがうまくミックスされ、即プロとして通用する選手が少なくないのだ。その一番の成功例は、現WBC世界ライト級暫定王者ホエル・カサマヨール(36歳)。デラホーヤと同じ'92年のバルセロナ五輪金メダリストだから息の長い選手だ。

 カストロ首相は強制送還されたリゴンドーらに厳罰を与えないと約束したが、ナショナル・チームから外されることは確実。「国際大会で勝つよりも、国内で勝ち残る方が大変」といわれるほど選手層の厚いキューバである。代わって五輪で活躍する逸材はいくらでもいるのだ。

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