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ピッチの外で続けた戦いの集大成。 

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posted2004/11/18 00:00

ピッチの外で続けた戦いの集大成。<Number Web>

 「日本人はフィジカルが弱い」。それは日本サッカー界においては、「宿痾」のごとく考えられ、アジアのライバルに敗れるたびに、敗因として「フィジカルの弱さ」が公然と指摘されてきた。

 「それでありながらフィジカルトレーニングや、フィジカルコーチというものへの理解はずっと低いままだったんです」

 著者のひとりである菅野淳は、今夏のアテネ五輪において、山本昌邦監督のもと、フィジカルコーチを務めた人物として知られている。そもそも大学時代の著者に、「フィジカルコーチ」という未踏の荒野の可能性を示したのが、山本であったという。山本に誘われて、日本人フィジコとして歩み始めた当初は、選手の理解もなく、基礎的なデータを集めるだけでも一苦労だった。だがトレーニングのためのトレーニングではなく、その成果をいかにピッチ内での結果に結びつけるかという視点でなされるフィジカルトレーニングは、やがて選手たちの信頼を集め、高原直泰、福西崇史などフィジカル面でも世界と渡り合える選手が育っていく。

 年齢に応じてどのようなトレーニングをするべきか、正しい給水のとり方、ケガからのリハビリ、試合前の食事……本書は、サッカープレイヤーにとってはいずれも身近な問題でありながら、これまで明確な正解が示されてこなかった質問に対して、現場での豊富な経験と最先端の知識を踏まえての「回答」を示している。「どうしたら足が速くなるんですか」という永遠のテーマに対しても、「まず足の速さは、素質ではありません」と断言した上で最新のトレーニングを紹介する。サッカー少年とその指導者向きに平易に書かれているが、その内容は現時点でのこの分野の集大成、といえるだろう。

 万端の準備を整えて挑んだアテネでのチャレンジは、確かに失敗に終わった。世界との差は決して小さくない。数あるスポーツの中で、サッカーは日本人に向いているスポーツなのだろうか? 世界のトップに達する可能性があるスポーツなのだろうか? そう質問を投げかけると、著者はしばらく考えた末、意を決したように断言した。

 「……僕は向いている、と考えます。アテネでもフィジカル面で歯が立たなかったということはないし、ここにきて、ようやく日本人独特のフィジカル要素がはっきりでてきたと思うんです。一言でいうと、90分間スタミナを落とさずに戦い抜けるということ。それを前面に押し出して、さらに昔から日本人の長所としてあげられるクイックネスなり戦術理解度の高さなりをプラスしていけば、世界に通用しないはずがないと思います」

 それはまた、山本と著者がアテネ五輪において、実現しようとしたものでもあった。

 「世界のサッカー大国と日本との間には、まだまだ如何ともし難い歴史の差があるのは事実です。でも、そうでない部分、フィジカルトレーニングの分野の研究についていえば、日本とそれらの国々とでもスタート地点はさほど変わらない。暑熱対策や給水マニュアルなど、むしろ日本がリードしつつある部分もある。ここにチャンスが生まれてくるわけです」

 たとえ1ミリであっても、奪えるところで世界との差を奪い、あるいは縮めることで、次なるビッグチャレンジのときに勝算を0・1パーセントでも高めておく。フィジカルコーチは、ピッチの外で、常に戦い続けるのである。

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