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アテネの屈辱から143日。復活の井上康生、男泣き。 

text by

藤山健二

藤山健二Kenji Fujiyama

PROFILE

posted2005/02/03 00:00

 一流選手の涙はそうそう見られるものではない。それが、強い男の代名詞ともいえる柔道家ならなおさらだ。

 だが、井上康生(綜合警備保障)はわずか5カ月の間に2度も泣いた。最初は昨年8月、アテネ五輪での屈辱の涙。そして2度目は1月9日に行われた嘉納治五郎杯での嬉し涙。地獄を見た天才柔道家は、143日間の苦闘の末、ついに復活への第一歩を踏み出した。

 誰もが金メダルを信じて疑わなかったアテネ五輪男子100kg級では、4回戦でE・ファンデルヘースト(オランダ)に背負い投げで畳の上に叩きつけられた。気持ちの整理がつかないまま臨んだ敗者復活戦も2回戦で敗退。大きな体を震わせて泣きじゃくった。

 帰国後は公式の場では現役続行を強調したが、後に「もうやめようかという気持ちもあった」と明かした通り“引退”の2文字が頭をよぎった時期もあった。だが、アテネでの負けは、とうてい納得できるものではなかった。初戦から動きが鈍く、心技体すべてがバラバラだった。少なくとも日本選手団の主将として五輪で見せるような柔道ではなかった。

 慢心や油断があるような男ではない。だが、アテネでは、戦う前から精神面が破綻をきたしていたのは誰の目にも明らかだった。なぜそんな状態になってしまったのか。それが分からないまま、自ら身を引くことはできなかったのだろう。言い換えれば、アテネで負けた理由を自分自身でつき止めるために、井上は再び畳の上に戻ってきたのだ。

 そうして迎えた嘉納治五郎杯。初戦は得意の内股で42秒、2回戦も45秒で仕留めた。100kg超級に転向した影響はまったくなかった。3回戦こそ優勢勝ちだったものの、準決勝では高井洋平(国士大)に内股で一本勝ち。決勝戦でも、2分22秒にルイバク(ベラルーシ)をまたしても内股でなぎ倒し、「皆さまのご声援が……」と観客の前で絶句した。

 「柔道人生の第2章はまだ始まりにすぎない。課題はあるけど、ひとつひとつ頑張っていきたい」

 男泣きした後の記者会見で、井上は力強くそう話した。アテネで負けた理由はまだ分からない。簡単には見つからないかもしれない。だが、前に進み続ければ、いつかは必ず答えが分かるはずだ。その時こそ、井上は、本当の意味での金メダルを手にできる。

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