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ホームランを通して見る野球という豊饒な世界。 

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photograph byTamon Matsuzono

posted2004/06/03 00:00

ホームランを通して見る野球という豊饒な世界。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 きっかけは、ニューヨーク・ヤンキースに移籍した松井秀喜のひとことだった。

「キャンプに入って、まだ1日か2日しかたっていないのに、『いったと思ったボールが全部いかない。違う打ち方をしないと駄目だ』と言うんです」

 前シーズン、松井はキャリア最高となる50本のホームランを放ち、“日本のホームラン王はメジャーで通用するのか”という期待を背に海を渡っていた。その松井から出た言葉だけに、衝撃的だった。

「それまで、松井はボールの下側を打ち抜いてスピンをかけることでホームランを量産していました。10年かけて日本で完成させた打法です。ところがそれでは駄目だという。驚きました。ボールにバックスピンをかけて打球を上げることによってホームランは生まれる――それがプロ野球の定説で、わたしもそう信じていましたから」

 どうしたら松井はメジャーでホームランを打てるのだろう? メジャーの打者はどのようにしてホームランを生み出しているのだろう? そもそもホームランを打つための方法論というものはあるのだろうか? 次々と疑問が湧き上がってきた。

 本書は、そのような疑問をひとつひとつ丁寧に解きほぐしていく。そして、その過程で、野球というスポーツのさまざまな面を読者は知ることになる。例えば、松井はなぜ、日本とアメリカで打ち方を変えなくてはいけなかったのか。この疑問の向こうには、日本とアメリカの野球の違いが見えてくる。

「メジャーリーガーと日本の選手では、ベーシックなところで体、パワーが違う。メジャーの投手が投げる、重く揺れるボールを、松井が日本でやっていたようにスピンさせるだけでホームランにすることは難しい。技術に加えて、スピード、パワーも必要になってくるんです。だから、同じ“ボールを遠くに飛ばす”ということをしようとしてもやり方が変わってくる。日本の“本塁打術”とメジャーの“ホームラン術”は違うんですよ。今、松井はそのギャップを埋めようとしているんだと思います。メジャーで40本のホームランを打ったとき、日米の技術とパワーが融合した、松井独自のホームラン術が完成するでしょう」

 では、王、田淵、秋山、マグワイア、ボンズ、ソーサといった日米の個性的な打者たちは、いかにしてホームラン打者たりえたのか。筆者は豊富な取材をもとに、さらなる考察をすすめていく。

「松井のやっていることだけが正解じゃない。その方法論は十人十色。人によってこれだけ違うのか、というのは驚きでした。自分の能力を最大限にいかす打ち方を見つけた選手が大打者であるということなのかもしれません。今シーズンの巨人の阿部選手などを見ていると、彼も何か独自のアプローチを見つけたんだろうな、と思います。『遠くに飛ばすってどういうことなのか』という疑問をぶつけたら面白い答えが返ってくるでしょうね」

 ホームランというひとつの視点を通すだけでも、野球という豊饒な世界の一端を見ることができる。そして、われわれは野球が持つ魅力のほんの一部しか知らないのかもしれない。本書はそんなことを教えてくれる。

「野球って奥が深い、と思ってもらえれば。単純に打った打たないだけじゃなくて、こんなことを選手は考えてるのかなあ、と想像しながら試合を見てもらえればもっともっと野球は楽しくなるはずなんです」

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