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リベンジに燃える老雄を迎え撃つ長谷川穂積。 

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前田衷

前田衷Makoto Maeda

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posted2006/03/09 00:00

 「ウィラポンは前に対戦した時よりも強くなっていると想定して、トレーニングしています」

 3月25日に予定されるWBC世界バンタム級王座2度目の防衛戦で前王者ウィラポン・ナコンルアンプロモーションを神戸に迎え撃つ王者長谷川穂積(25)は、意外にもこう言うのである。

 辰吉、西岡と計6度戦って一度も負けなかったタイの名王者を攻略して王座を襲ったのは昨年4月。初回の先制攻撃から始まり、ペースを奪われかけた後10回の猛攻を経て12回を戦い切り、文句なしの3―0判定勝ち。再戦はもっと新旧交代が際立つのではと期待したいのだが、長谷川は37歳のウィラポンがより強くなってくると言う。これには「油断すまい」との自戒の念が込められているのだろう。長谷川には若さに似合わぬ、ベテランの老獪さもある。

 日タイ間の長い世界タイトル争奪史において思い出されるのは、40年以上前に起こった2度の“悪夢”である。

 弱冠19歳のファイティング原田が王者ポーン・キングピッチをサンドバッグのように打ちまくり、11回KO勝ちで世界フライ級王座についたのは昭和37年秋。日本中を沸かせる快挙だったが、その僅か3カ月後バンコクで行われた再戦で原田は判定負けし無冠の帰国を余儀なくされる。代わってポーンに挑んだ海老原博幸は自慢の“カミソリ・パンチ”で初回にポーンを眠らせ世界王者となる。だがこれも4カ月後の劇的なドラマの前段でしかなかった。タイの再戦でポーンはまたしても判定勝ちし海老原からベルトを奪還した。日本で2度も惨敗を喫したポーンが再戦では別人の強さで原田、海老原を苦しめた。狂熱のタイには日本選手の力を失わせる仕掛けでもあるのかと不思議でならなかったものだ。

 もちろん今回の舞台はタイではなく長谷川の地元神戸である。ウィラポンは高額の報酬と引き換えに、自国で戦うという前王者の権利を放棄し、日本のリング8度目の登場に同意した。侮ってはなるまい。王座を追われた後これまで5度の調整試合で全勝4KO(最新試合は2月17日、1回KO勝ち)。相手はすべて長谷川と同じサウスポーである。リベンジに懸ける老雄の執念は、かつてのポーンにも似て不気味である。

■関連コラム► 長谷川穂積をアメリカに駆り立てるもの。 (2008年8月7日)
► 【特別インタビュー】 長谷川穂積 ほんまもんのチャンピオンになれた日。
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