SCORE CARDBACK NUMBER

ヒンギス引退をめぐる、不可解な謎とは。 

text by

吉松忠弘

吉松忠弘Tadahiro Yoshimatsu

PROFILE

photograph byHiromasa Mano

posted2007/12/13 00:00

ヒンギス引退をめぐる、不可解な謎とは。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

 元女王のマルチナ・ヒンギスが、11月1日、不可解な理由で2度目の引退を表明した。チューリヒで会見を開いたヒンギスは、6月のウィンブルドン3回戦で敗れた後のドーピング検査で、コカインが検出されたと話した。ヒンギスによると、採取された尿の検体から陽性反応が出たという。すぐに自ら毛髪検査を行ったが、それは陰性だった。しかし、予備の別検体の検査も陽性。検査機関から告発されているとも話した。会見では、コカイン使用を完全否定し「このようなばかげたことがあると、プレーする意欲もわかない。それにケガや年齢的にも、さすがに限界」と涙をこらえた。

 しかし、この引退劇は謎ばかりだ。まず、陽性を明らかにしたのはヒンギス本人だけ。検査機関、検査を委託したウィンブルドン、4大大会を管轄する国際テニス連盟(ITF)は、大会終了から約5カ月も経とうとしているのに、何も公表していない。ツアーを管轄する女子テニス協会(WTA)だけが「何の報告も受けていない」と声明を出した。陽性が事実だとすれば、本人が明らかにしている現在、なぜ、どこも公表しないのか。

 例を挙げれば、ウィンブルドン前哨戦で興奮剤の陽性反応が出た男子のマルセロ・メロの場合、ITFから9月24日に公表された。ヒンギスの場合、すでに5カ月が経過している。また通常、陽性反応が出た場合、検査機関から委託した大会や連盟に一報が届く。検査機関が、当該団体を飛び越し、直接、選手に報告したり、訴えたりすることはあり得ない。

 もし何もなかったなら、なぜヒンギスは自分をおとしめるような嘘をついたのか。深読みすれば、プライドの高いヒンギスが、引退の理由をテニスの衰え以外に求めたかったとも考えられる。それにしても、ドーピング違反やコカインでなくとも良かったはずだ。コカインは犯罪である。テニス界は、現在、男子ツアーの八百長疑惑で揺れている。賭を対象とした八百長が、日常茶飯事に行われていたというのだ。'68年にプロに門戸を開放して以来、清廉潔白なイメージを維持してきたテニス界だが、ここに来て、一気に多くの疑惑が噴出してきた。ヒンギスの引退発表から1カ月経過したが、その後の続報はほぼ皆無。謎を謎のままとせず、闇からの早い脱出を望みたい。

ページトップ