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全仏の勝敗を分けた、片手のバックハンド。 

text by

吉松忠弘

吉松忠弘Tadahiro Yoshimatsu

PROFILE

photograph byHiromasa Mano

posted2006/07/04 00:00

全仏の勝敗を分けた、片手のバックハンド。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

 私は片手のバックハンドしか打てない。それも球種はトップスピンなどをたまに真似るだけで、ほとんどがスライスだ。学生時代、両手打ちのバックはまれな存在だった。両手が一般の愛好家に認知されるのは、'70年代のボルグ出現以降である。その打法は急速に広まり、現在は片手打ちの方が希少価値となってしまった。両手打ちはリーチが短いものの、安定感、パワー、攻撃的トップスピンの打ちやすさで市民権を得たのだ。

 今年の全仏決勝は、奇しくも男女ともに両手バックと片手バックの対決となった。男子は両手のナダルが片手のフェデラーを下し、女子は片手のエナン・アーデンが両手のクズネツォワを倒した。両手のナダルとクズネツォワは同じ戦法を使い、相手のバックを切り崩す作戦に出た。それに成功したのがナダルで、うまくいかなかったのがクズネツォワである。

 片手バックの最大の弱点は、肩より高い球の処理にある。最も力が入りにくく、自由も利かない。両手が生まれた要因のひとつに、この対策があった。ナダルもクズネツォワも、スピンの利いた弾む球で、そこを攻めた。体が伸びきり力が入らず、当たり損ねを繰り返したフェデラーに対し、エナン・アーデンは無理をせず、山なりの返球やスライスで逃げた。それが勝敗の差となって現れた。ナダルとクズネツォワの球質の違いもある。ナダルは男子の中でも特にスピンが利き、重く弾む球を打つ。それを片手バックで返球するのは、王者フェデラーでも困難だったに違いない。

 両手は、力で劣る日本人向きの打法だった。特に女子は、パワーのなさから大半が両手だ。フォアもバックもともに両手打ちという変則打法も、平木理化、宮城ナナ、森上亜希子、中村藍子と、日本女子には非常に多い。しかし、私が片手打ちだからかもしれないが、どうも美しさでは片手打ちに軍配が上がるような気がする。もちろん、テニスは「型」を競うスポーツではない。だが片手で振り切った時のフィニッシュは爽快感満点で、両手のこぢんまりとしたフォームとは迫力が違う。両手打ち全盛の今だからこそ、密かに片手復活を願う私である。ちなみに、個人的に好きなバックを持っていた選手は、イタリアのファリナ・エリアだ。知らないか。

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