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何がクルム伊達を駆り立てるのか。 

text by

秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byHiromasa Mano

posted2008/10/09 00:00

何がクルム伊達を駆り立てるのか。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

 クルム伊達公子が東レ・パンパシフィック・オープンの予選3回戦で敗退した。4月に復帰してから、出場した7大会はいずれもWTAツアーの下部に位置づけられるITFサーキット。言ってみればマイナーリーグだ。初めて挑んだメジャーで本戦進出を逃したが「歯が立たない感じではなかった。あとは慣れだと思う」と前向きに語った。

 大会開幕前は「スピードについていけないのかもしれないし、自分のテニスができるかもしれない、その両方の予測があった」という。11年半のブランク。初めて顔を合わせる一線級の選手。文字通り、半信半疑で予選に臨んだのだ。それでも彼女は「何が起こるか、自分がどこまでできるか楽しみだった」という。この、自分に対する好奇心こそ、クルム伊達の真骨頂だ。

 チャレンジ精神、と言い換えれば分かりやすい。だが、「何が起こるか楽しみ」というのはやはり、自分への好奇心やテニスに対する探求心から出てくる言葉なのだと思う。そもそも、あのライジングショットも探求心の産物だった。小柄な自分が世界のテニスに、つまりグラフやサバティーニのパワーに対抗するにはタイミングの早さしかない、そう気づいた彼女はテークバックを改良し、ライジングショットを編み出したのだ。

 試合で課題を見つけ、練習でその課題に取り組み、次の試合で試す。これは選手なら当たり前のことである。しかし、その過程で段違いの集中力を発揮するのがクルム伊達という選手だ。高い感度で「やるべきこと」を見つけ出し、旺盛な探求心でそれに取り組む。そして「どこまでできるかな」と自分に対して好奇心を持ちながら、コートで“実験”する。そんな研鑽の結果が、世界4位だった。

 クルム伊達は「日本の若手に刺激を与えたい」と言って復帰したが、彼女にあって若手選手にないもの、それがまさに好奇心と探求心だろう。このところ、海外を転戦して“武者修行”する若手が減っている。国内で多くの国際大会が開催されるため、海外に出なくてもランキングを上げることができる。だから、あえて厳しい環境に身を置こうとしないのだ。自分への好奇心が、テニスに対する旺盛な探求心があれば、足は自然と海外に向くはずだ。そこが残念でならない。

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