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「いい人」ではないからこその強さ。 

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前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byAtsushi Hashimoto

posted2007/11/29 00:00

「いい人」ではないからこその強さ。<Number Web> photograph by Atsushi Hashimoto

 内藤−亀田戦が「名勝負」として記憶されることはないにしても、あの試合の12ラウンドに起こったことは、後々ファンの間で語り草になるに違いない。あの時、大毅はなぜあのような反則行為を連発したのだろうか。

 「あれは、おそらく負けたくてやったことだと思いますよ」と、独自の解説をしてくれたのは浜田剛史さんである。負けたくて、といっても別に八百長行為ではない。回は終盤に入り、相手は強い。このままではどうやっても勝てない、どうせ負けるなら、反則失格負けの方がましと、自暴自棄になって……プロレスラーがフォール負けを嫌って“名誉ある”反則負けを選ぶのと同じ心理だったか。レフェリーに片腕掴まれ減点を取られた時、残る左手でガッツポーズをとった大毅の表情が忘れられない。

 大毅がチャンピオンを抱え上げた時、筆者の頭に浮かんだのは、10年前のラスベガスの世界ヘビー級タイトル戦でタイソンがホリフィールドの耳を噛み千切った異様なシーンだった。あの時のタイソンは3回に突如逆上して蛮行に及んだのだが、後に自らの愚かな行為を謝罪し、その中で「ホリフィールドのバッティングに頭にきて……」云々のコメントがある。

 普段のホリフィールドは同じ選手仲間からも尊敬を集めるナイス・ガイだが、当然ながら試合中は決して「いい人」ではない。偶然としか見えないヘディング、反則スレスレのクリンチ等の「技術」は相当なものである。タイソンも、いつもなら自分の力強い攻撃に相手が下がるはずが、ホリーには逆に前に出てこられ、何をやってもうまくいかない。イライラは募り、最後はプッツンして「世紀の噛み付き」に繋がったというわけだ。

 一方したたかな内藤も、大毅の突進にさりげなく頭を下げ、大毅がこれに顔をぶつけて攻撃が止まる場面が何度もあった。こうした老獪さ狡猾さもまたテクニックのひとつであり「勲章」なのである。そうでなければ、四角いジャングルの中でベテランが勝者として生き残れない。

 内藤もホリフィールドも、それぞれ亀田、タイソンという“バッドボーイ”のおかげで一層「いい人キャラ」が引き立ったが、リングの上では決してナイス・ガイではない、だからこそ強いのである。

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