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「限界」を認めない清水宏保の新たな挑戦。 

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藤山健二

藤山健二Kenji Fujiyama

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posted2006/11/23 00:00

 今年もまたスピードスケートのシーズンがやってきた。国内では10月末に全日本距離別選手権が行われ、ワールドカップも11月10日にオランダのヘーレンフェーンで開幕した。昨季のトリノ五輪でメダルなしに終わった日本勢はすでに次のバンクーバー五輪に向けて動き始めているが、いろいろな意味で一番注目されるのは清水宏保(NEC)だろう。

 トリノ五輪では得意の500mで18位と惨敗。32歳という年齢を考えれば、そのまま引退してもおかしくなかった。だが、清水は再びリンクに戻ってきた。しかも、初戦の全日本距離別では1回目こそ35秒75で4位だったものの、2回目は後半の粘りで同走の加藤条治(日本電産サンキョー)を逆転。35秒41の好タイムをマークし、合計でも1分11秒16で見事3位に食い込んだ。

 あのトリノの屈辱から8カ月。当たり前の話だが、その間には「もう滑りたくないと思った時期もあった」という。長野でもソルトレークシティーでも、清水はここ一番の驚異的な集中力でメダルをもぎ取ってきたが、トリノでは「戦ったというより、ただこなしていただけだった」と振り返る。普通の選手ならそこで年齢的な「限界」という言葉が脳裏に浮かぶはずなのだが、清水は五輪も含めた昨季の不調を「スケートを始めてから初めて味わったスランプ」と位置づけた。体力的な限界ならばもうどうしようもないが、「スランプ」ならば努力次第で乗り越えることができる。32歳にしてなお「限界」を認めないこの考え方は、発想の転換というより、清水の信念と言った方が分かりやすい。その信念のおかげで清水は再びリンクに立ち、W杯への出場権も手にすることができた。全日本で滑った後に漏らした「トリノでやめないでよかった」という言葉は、偽らざる本心だったに違いない。

 もちろん、信念だけで世界の頂点に立てるほど、今のスピード界は甘くない。これからもどん底に落ちることが何度もあるだろう。だが、以前と違って今の清水には失うものは何もない。守るべきものもない。長野五輪金メダリストの呪縛から解放された元エースがこれからどんな滑りを見せてくれるのか。まだまだ当分、32歳のベテランからは目が離せそうにない。

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