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時計が証明する、「俊足」という存在感。 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

PROFILE

posted2007/07/26 00:00

 '02年7月下旬から現在に至るまで、全試合ストップウオッチ持参で野球を見ている。主な計測目的は打者走者の一塁到達タイム。これをするようになってから「50m5.8秒」のように一見真実らしく見える数字が、実際には選手の走塁能力を映し出していないことがわかった。重要なのは試合でどんな走塁をしたのかということ。ストップウオッチはその要望に100パーセント答えてくれるアイテムで、藤村大介(熊本工・遊撃手)はストップウオッチが弾き出す数値と試合でのパフォーマンスを証明する最高のモデル(被験者)になった。

 昨年夏以降、藤村が出た試合を9試合見ている。'06年夏甲子園、秋の九州大会、明治神宮大会、そして'07年春選抜甲子園大会である。ストップウオッチで計測可能だったのは33打席。このうち藤村は30打席で「俊足」と認められる一塁到達タイムを記録している。これはストップウオッチ持参で見た約1250試合を通じて圧倒的ナンバーワンである。

 ちなみに、「俊足と認められるタイム」とは「一塁到達4.29秒未満、二塁到達8.29秒未満、三塁到達12.29秒未満」。これはアメリカのスカウトやエージェント(代理人)がアマチュアの選手や日本人選手の能力を見るとき目安にする数字と思っていただいていい。

 藤村で驚かされるのはより高レベルな「一塁到達3秒台、二塁到達7秒台、三塁到達11秒台」を、33打席中20回も計測していること。これは大げさでなくイチロー(マリナーズ)、青木宣親(ヤクルト)と同レベルである。さらに「二塁打はどのタイミングで行こうと思う?」と聞くと、藤村は首をかしげて、「二塁打を打った記憶がない」と言ったのだ。「二塁打性の打球なら三塁まで走ってしまう」と翻訳してもいい。実際には昨年夏の福知山成美高戦で1本記録しているのだが、それすらも忘れてしまうくらい数少ないということだろう。

 今年の高校球界は高校通算本塁打歴代1位を記録する中田翔(大阪桐蔭高・外野手)を中心に展開している。藤村自身、「意識する選手は中田」と答え、「1人の存在がチームの脅威になっている」と評価する。しかし、その言葉はそのまま藤村にも当てはまっている。「オンリーワン」の存在感では負けていないのである。

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