SCORE CARDBACK NUMBER

ヒートを優勝へ導いた
名将ライリーのひと言。 

text by

宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

PROFILE

posted2006/07/04 00:00

 長いシリーズの中でも勝負を分ける一瞬というものがある。

 そのとき、マイアミ・ヒートのヘッドコーチ、パット・ライリーは選手たちの目を順に見つめると、手に持った作戦板にたったひと言、「シーズン」と書いた。NBAファイナル第3戦でのこと。最初の2試合に連敗していたヒートにとって負けたら王手をかけられてしまう大事な試合だった。ハーフタイムの9点リードは3Qが終わるまでに9点ビハインドに変わり、ヒートの手の中から勝ちがこぼれ落ちそうになっていた。

 そのときライリーが選手に授けたのは、作戦ではなく戦う気持ちだった。

 「今我々はシーズンをかけて戦っているんだ」と選手に思い出させた。この言葉で勝負の針が大きく振れた。ヒートはその後、怒涛の追い上げで第3戦に逆転勝利。そして次の第4戦も、さらに第5戦にも勝ち、逆に先に優勝に王手をかけた。

 NBAヘッドコーチ歴22年のライリーにとって、かつてはファイナルで戦うことも、優勝することも、日常的な出来事だった。36歳でLAレイカーズのヘッドコーチになると、最初の9年で7回ファイナルに進み、4回優勝。「'80年代の優勝は全部が自分のものだと本気で思っていた」とライリーは振り返る。「当時の自分は若く、自分勝手な野望家だったんだ」

 '90年にレイカーズを離れたライリーは、優勝が簡単なことではないのだということに初めて気づいた。NYニックスの4シーズンでは一度だけファイナルに進んだが、優勝を目の前に敗退。ヒートに移ってからは、今季までファイナルに進むことすらできなかった。

 ライリーは常に、NBAでの人生を「勝利と苦痛」と表現してきた。そして、61歳になった今でも目の前の「苦痛」をなくそうと努力を続けている。今一度、究極の「勝利」にたどり着くために。

 そんなライリーのもとに、ファイナル中、友人から電話があったという。その友人はライリーに言った。

 「エベレストの山頂でキャンプ生活をする人はいない。みんなエベレストに登り、頂上に触ると、再び降りていく」

 だから道中も楽しめということだと、ライリーは友人の言葉を解釈した。最後に山頂に触れてから18年。久しぶりの山頂近くの景色をライリーは存分に楽しんだ。

関連キーワード
パット・ライリー
マイアミ・ヒート
NBA

ページトップ