SCORE CARDBACK NUMBER

横綱を窮地に立たせた苦労人、北勝力の進化。 

text by

服部祐兒

服部祐兒Yuji Hattori

PROFILE

posted2004/06/17 00:00

 突き押し相撲は、波に乗ったら手がつけられないと、相撲界でよく言われる。だが、これ程の変身を誰が予測できただろうか。九分九厘手中にした賜杯は、惜しくも逃してしまったが、北勝力の快進撃には正直驚かされた。

 幕下通過に26場所も要した北勝力が新入幕を果たしたのは、2年前の夏場所のこと。突き押しを武器にいきなり11勝を挙げ敢闘賞を獲得したが、幕内上位の壁は厚く、未だ三役経験は無い。今場所、前頭筆頭の北勝力を大化けさせたものは、一体何だったのか。

 その要因は基礎体力の向上、突き押し相撲の徹底、平常心の維持の3点だと私は見る。

 182cm、154kgの肩太りの体型で、現代っ子らしく足が長く、腰の位置が高い。突き押しの基本は下から上へだとすると、北勝力の体型は、突き押しの理想形とは言い難い。相手を自分の高さに突き上げるには、相手以上の筋力、瞬発力が絶対に必要である。場所中も続ける、二十数段の階段を20往復するトレーニング。プールでの水中ダッシュで下半身を鍛え、更に週4、5回のジム通いで全身の筋力強化を図った。稽古場以外での地道な稽古の積み重ねが、確かな体力向上につながった。その体力を最大限に活かし、立合いのもろ手突きからの攻撃相撲へとつながった。変化や引きを封印したことで、北勝力の相撲からばたばたは消えた。手足がよく出る上に、手の伸びが抜群。全体重、全パワーの乗った、よい角度からの突き放しは、これまではね返されてきた上位陣の壁を完全に突き壊した。15日間、前に出る相撲に徹することで、北勝力は自分のリズム、流れを維持し続けた。

 極度の緊張感の中でのリラックスは、勝負師の永遠のテーマだろう。今場所の北勝力の相撲には気負いや力み、硬さが全く感じられなかった。「上位にも肩の力を抜いていけば、相撲の取れることがわかった」という本人のコメントからもわかるように、北勝力は揺るぎない自信のもと、自然体で相撲を取ることの強さ、凄さを体感したに違いない。心・技・体全てにおいて飛躍的成長を遂げた北勝力。圧巻は何といっても朝青龍の連勝を35で止めた一番だろう。この取り組み後、師匠から「明日からが大切」と言われたそうだが、北勝力の大変身が本物かが問われるのは来場所。同じ相撲が続けば一躍、次の大関候補である。

ページトップ