SCORE CARDBACK NUMBER

「日本のハリケーン」袴田死刑囚のこと。 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

PROFILE

photograph by

posted2008/02/28 00:00

 「東方のハリケーン、ミスター・ハカマダ、俺は生き延びた。あんたも生き延びてくれ……」

 後楽園ホールのビデオスクリーンに現れたルビン“ハリケーン”カーターが、力強い口調で連帯のメッセージを送った。東日本ボクシング協会主催の「袴田巌再審支援チャリティBOXING」(1月24日)のひとコマである。

 元プロボクサー袴田巌は、1966年静岡で起こった一家4人放火殺人事件の犯人として逮捕された。本人は一貫して無実を主張したものの、連日の長時間の取調べで「自供」に追い込まれ、これが死刑判決の決め手となった。だが袴田を犯人とするには疑問点が多く、弁護団は再審請求を出し続けている。

 1審で死刑判決を下した当の裁判官の1人が「無罪の心証を持っていた」と告白し、袴田支援に加わったことも記憶に新しい。ボクシング界も一昨年に再審支援委員会を立ち上げ、従来になく積極的な支援活動を行っている。

 カーターは元世界ミドル級1位。ボブ・ディランが「世界チャンピオンになれたかもしれない」と歌った男である。奇しくも、袴田事件と同じ年、同じ月に米ニュージャージー州で起きた殺人事件の犯人とされ「トリプル終身刑」の判決を受けた。しかし、幸運にもニューヨークタイムズが証人の偽証を暴いたのを機に、冤罪事件であることが判明。紆余曲折を経て、19年後に晴れて自由の身になった。奇跡の生還ドラマは『ザ・ハリケーン』の題名で映画化されている。

 そんなカーターに、袴田は祝福と共感のメッセージを送ったことがある。ふた昔も前のことだった。返事はなかったが、このたび協会の支援委が動き、カナダ在住のカーターに接触、冒頭のように熱い激励メッセージをもらったのである。

 マルコムXとキング牧師の暗殺の間に起こったカーターの冤罪事件は、その背景に人種差別があったが、では袴田事件はどうか。「袴田犯人説の根底にあるのは、刑事の『ボクサーくずれ』への偏見であると思える」と書いたのは、故・寺山修司だった。大橋秀行・再審支援委員長以下、ボクシング関係者が「他人事ではない」と力こぶを作るのも、この辺にある。

 袴田の獄中生活は約42年、死刑が確定してからでも27年を超えた。

関連キーワード
袴田巌
ルビン“ハリケーン”カーター

ページトップ