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体当たり取材で明かす「オレ流」の内実。 

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posted2005/03/03 00:00

体当たり取材で明かす「オレ流」の内実。<Number Web>

 出会いは'93年の秋。社会人野球雑誌の編集者だった横尾が、当時の中日の4番・落合博満に取材を申し込んだのがはじまりだった。

 「社会人出身のプロ野球選手の企画をやる、ということになり、どうせなら頂点にいる選手に、とダメもとで企画を持ち込みました」

 企画書自体はNGだった。だがそこで、自分の野球観をきちんと残せる企画なら取材を受ける、という異例の逆提案を受けた。

 「もちろんすぐにOKしました。すると『明日から和歌山で自主トレだから、時間があればついてきてほしい』と言われて、その日の夜に都内のホテルで合流したんですが、会うなり『テープ持ってる? 話せるときにどんどん話すから』と取材が始まって……」

 それから1週間、落合の口からは昼夜問わず、野球に関する話が滔々とあふれ出た。横尾も「あのピッチャーはこんな投げ方ですね」と身振り手振りを交えながらその言葉に食らいついていく。立教高校野球部出身で、社会人になっても暇があれば野球場に足が向いてしまう横尾にとって、それは夢のような時間だった。残ったのは十何本にも及ぶ録音済みの120分テープ。そして、人を喰った言動で知られる稀代の名打者の“信頼”だった。

 「自主トレ最終日の夜、旅館の露天風呂に一緒に入ったんです。満月が出てましてね。『人間って仕事でも人生でも、あんなにまん丸じゃない。でもああいうまん丸になろう、と努力し続けなきゃならないんだよな。これから長い付き合いになるかもしれないけど、よろしくな』と話されたのを覚えています」

 横尾はその言葉通り、落合が現役を引退して以降も、彼の野球哲学を活字に残す仕事を続けてきた。横尾は落合によく「お前も本当に野球バカだよなあ」と呆れられるという。当代随一の野球の匠に「野球バカ」と言われること、それは野球に取り憑かれ、出版社を辞してベースボール・ジャーナリストとなった男にとってどれだけ心強いことだったか。

 さて、本のこと。リーグ優勝を果たした昨季のドラゴンズの全145戦(日本シリーズ含む)の観戦記。何ともタフな仕事である。

 「ずっと落合さんに監督をしてほしかった。で、以前に『もし監督をやるなら、福岡でも大阪でも引っ越して全部取材します』と言ったことがあって。だからその約束を守っての“名古屋単身赴任”でした」

 メディアが「オレ流」と騒ぎたてた落合監督の采配。しかし、その内実はいたってシンプル。ごく乱暴にまとめれば「チームが一体となり、1点を大切に粘り強く守り勝っていく野球」というものだった。この本に記された数々の箴言が、それを雄弁に裏付けている。ここでは一つだけ紹介しておこう。「勝てば選手のおかげ、負けは監督のせい」――。

 「現役時代、さまざまな指揮官のもとで戦った経験がそういった考えにつながっている。また、自身が決して野球エリートとはいえない環境から這い上がったからか、どんなに若い選手でも戦力と判断すればチャンスを与える。結局、監督の考えはすべて経験に基づいていて、昔も今もまったく変わっていないんです」

 さて、2年目。沖縄・北谷では、全12球団の中で最も長い練習時間の中で、活気に満ちたキャンプが行われていた。

 「この本に書かれた監督の野球哲学は、むしろ今年こそ開花するもの。日本一という宿題もある。今年もできるかぎり試合を観てきます」

 横尾の名古屋での日々は、今年も刺激に満ちたものになりそうだ。

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